2009年9月30日水曜日

商売熱心、研究熱心。

比較的過ごしやすい雨季のはずなのに、雨がさっぱり降らず、とても暑い毎日がつづいています。寝苦しいので、皆さん寝不足気味。わたしもどうもふらふら。マリの南部や西アフリカの沿岸部は、大雨のためあちこちが浸水して、ひどいところは洪水になっているそうですが。その雨をちょっとこちらにも降らせておくれ、神さまよ。

**
ある商売熱心な友だちのはなし。

ジェンネの友だちに、ファトゥマタという女性がいます。ジェンネに来たことのある観光客の方なら、もれなくこのファトゥマタに「つかまった」ことがあるのではないかと思います。彼女は、外国人観光客向けにおみやげを売っています。店は構えておらず、自作のアクセサーを入れた盆を頭に載せ、観光客のいそうな場所に出没しては、(けっこう強引に、けっこうなお値段で)商品を売りまわっています。

わたしもジェンネに来てすぐは、彼女のターゲットになりました。「わたし観光客じゃないんですよ。買わないって言ってるでしょ?」「買えとは言ってないじゃないの! 見るだけでも見てみなよ! ほら、これなんてあなたに似合うんじゃない?」「そんなこと言って、買うまで離さないんでしょ!?」などと、毎回互いに喧嘩腰。この道15年という彼女の執念深さ、まさに蛇のごとし。頭にはアクセサリー、背中には赤ちゃんという勇ましい姿で、1時間でも2時間でも追いかけてきます。

当初はそんな険悪な雰囲気だった私たちも、今ではお友達です。わたしは意地でも買わない、ファトゥマタもそれを分かっていながら生活のために一切引き下がらない、という毎回のお決まりパターンに、5回目くらいで、互いに「ふぅ…おぬしもしぶといのぅ!」という感じの、妙な連帯感がめばえました。ふと「まったくあなたってカラバンチ(頑固、強情)ねぇ…」と彼女が笑いながら言い、わたしが「いやいや、あなたには負けるね。ところで今さらだけど、あなたのお名前は?」という会話が、お友達になったきっかけ。

その後は、彼女のわたしに対する商売っけはすっかりなくなり、おうちに招待してくれたり、売れ残った商品をプレゼントしてくれたり。それでも未だに、彼女につかまってしまった観光客を見かけると、『頑張って…!』と、彼女ではなく客のほうを応援せざるを得ません。それくらいしつこい、いや、たいへん商売熱心なのです。生活かかってますから。

そんな熱心な彼女から、先月、ある相談を受けました。「どうも最近、アクセサリーの売れ行きが悪い。ミクはチュバブだから、チュバブの観光客たちがどうしてこれを買わないのか、分かるかもしれない。どうしたらいいと思う?」と。

彼女のつくるアクセサリーは、なかなかかわいい。ビーズ・ネックレスは特に、女性らしい華やかさがあってうまいなぁ、と思います。でも、以前から気になる点がふたつ。素人がひとの商売に口だしするのははばかられるけど、助言を求められたので、思い切ってそれを伝えてみました。

ひとつは値段。マリの商売では値切りが常識です。相場や底値はありますが、値段が決まっているのは、砂糖やパン、油などのごく一部の商品のみ。市場や道端での売り買いは、交渉によって値が変わります。売り手はまず高い値段を提示して、買い手は低い値段を提示。そして互いに合意できる値段に歩み寄っていきます。こんな感じで。

「これが売れないと、明日からの米を買えないのよ。3000で買いなよ」「おたくの米事情なんて知らないわ。こっちもそんなお金はないの。1000でなら買うけど」「1000 !? そんな安値は無理。こっちだって5時間かけて作ったのよ? 仕方ない…500値引きしてあげる」「2500ってこと!? 全然値引いてないじゃない!…仕方ない、1500までなら譲ろう」「え~ぇ、1500~ぅ?」「そこまで下がらないなら買わない。もう帰ります。ばいばい」「あ!ちょっと待ちなよ! …2250でなら売れないこともないわね」「もう一声」「仕方ない、今日は特別よ。2000でいいわ」「…2000ね、悪くない、買った。」

ここまで読まれてお気づきかと思いますが、つまりは面倒なのです。書いて再現しながら面倒な気分になったくらい。元気なときにはこうした交渉も楽しいけど、疲れているときや急いでいるときに、40度の気温のもとでこれを繰り広げるのは、ちょっと大変。値札や定価に慣れている外国人観光客相手にこの戦法では、うまくいかないのではないかと思うのです。外国人の皆さん、特に年配の方々は、高めの値段を吹っかけられた最初の時点で戦意喪失・即時撤退。たまに「ふっかけやがって!」と猛烈に怒りだす人もいます。でもファトゥマタは、律儀にも? 外国人観光客に対していつもこの値下げ交渉戦術をとります。

というわけで、ファトゥマタへの「チュバブのミク」からのひとつめのアドバイスは、「定価を設定する必要はないと思うけど、あまり高すぎる値段から交渉を始めないほうがいいのでは」ということ。「特に年配の観光客を長いこと引き止めないほうがいい。彼らはあなたが思っている以上に暑さに弱い。彼らのやけどのように赤くなった肌と、疲れきったあの表情を見てごらんよ。それにチュバブは値札のない商品や値段交渉に慣れていない」。彼女は、「チュバブの国の商品には、全部値札がついてるの?」と驚きつつ、「なるほどね、分かった」とうなづいてくれました。(しぶとさが売りの彼女なので、このアドバイスを実践しているかどうかは知りません。)

ふたつめは、彼女が作るアクセサリーの色。マリの人は、マリの国旗の色が好き。服やアクセサリー、舟や自転車、食器のペイントにまで、好んで用いられます。その色は、赤・緑・黄のいわゆる「ラスタ・カラー」です。日本だとこの三色の組み合わせは、よほどレゲエ好きの少しはじけたお兄さんの服装などでしか見かけませんが、こちらではいたってポピュラーな組み合わせ。

ファトゥマタも例にもれず、よくこの三色を商品に用いています。そりゃ、買うほうも買いづらいわな。自分の国――フランス、スペイン、イタリア、ドイツ、アメリカからの観光客が多い――に帰って、赤・緑・黄が一堂に会したブレスレットをつける機会は、そうないと思います。マリ旅行帰りのお母さんがこのブレスレットをつけていようものなら、パリジェンヌの娘は「ママン、それ、全然イケてないわ」と一蹴すること必至。

というわけで、 ファトゥマタへの「チュバブのミク」からのふたつめのアドバイスは、「チュバブは色がシンプルなほうを好む。たとえばひとつのブレスレットに一色、せいぜい二色」ということ。彼女は、「でもさぁ、赤・緑・黄ってキレイでしょ?」と渋ります。「たしかに、あなたたちの肌の色にはキレイだと思うけど…。彼らの服を見てみなよ、茶色とか黒、白ばっかりで一、二色しか使ってないでしょ?」。彼女は、「う~ん、一色ねぇ…。分かった。ひとまず一色だけのブレスレットを作ってみて、その評判をみてみるわ。ありがと」と言って帰っていきました。

そしてしばらく会わぬまま、今朝。わたしに気づいたファトゥマタが、広場の向こう側から揚々と近づいてきます。いつもどおり、頭にはアクセサリーが載ったお盆、背中には赤ちゃん。そして今日は上機嫌。「わが友よ~!わが友ミクよ~!」とか大げさに叫びながら近づいてくるので、ちょっとはずかしい。

どうやら先日のアドバイスは功を奏したようで、「けっこう売れてるのよ。いや~、ありがとね~」とのこと。「で、なにがよく売れる?」と聞くと、「これ」と言って見せてくれたのは、黒一色のビーズのブレスレット。「これ、よく売れるのよ~。特にチュバブの年配のお客さんに」

「ほら、だから言ったでしょ?」と胸を張るわたしに、「それにしても、これ、そんなにキレイかねぇ…」とまだすこし納得がいかない様子のファトゥマタ。まぁわたしも、せっかくマリまで来て、自分の国でもごろごろ売ってそうな黒いビーズのアクセサリーを買って帰るのは、ちょっと味気ないよなぁ…とは思います。

パリでエッフェル塔の置物を、ハワイでド派手ハイビスカス柄のシャツを、京都で「祭」と書いた法被をお土産に買っていく人たちもいるんだから、マリの国旗カラーのブレスレットがマリで売ってたっていいじゃない、とは思います。でもまぁ、売れないとなれば仕方ない。友達の仕事の行き詰まり解消にすこしは役立てたようなので、まぁよしとします。



ある人がたまたま撮ってくれた、ファトゥマタとわたし。ママの猛烈なお仕事ぶりをずっと背中から見つめているこの赤ちゃんが、将来どんな敏腕商人になるか見もの&恐怖です。

7 件のコメント:

  1. 赤ちゃん、ものっすごい恥ずかしがり屋の無口な子供になる可能性も!mkちゃんが着ている服が素敵やわ。

    返信削除
  2. >wknぽ師匠

    そうやねー。意外に無口な子になるかもねー。

    きのうもばったり市場の前でファトゥマタ親子に会ったよ。この赤ちゃん、「あんた絶対カワイイって言われたいためにその言葉発しとるやろう!」って突っ込みたくなるくらい、かわいい言葉をしゃべりよった。

    お母さんの背中で、ごきげんな感じで「にゃぁ、にゃにゃ?にゃぁ」って言うんよ!いやぁ、かわいすぎて心臓が止まりそうになったね。お母ちゃんは「この子、最近しゃべるだすようになったのよ~」って。それにしても、「にゃぁ」、って…。思い出しただけでカワイイ!って叫びたくなるよ。

    服ほめてくれてありがとう。仕立て屋さんがはぎれを縫い合わせて作るものです。日本で着たらピエロっぽいかもしれん。

    ぽにょ先生もそろそろ後期の講義で忙しいことと思います。からだに気をつけてね。

    返信削除
  3. 誕生日おめでとー。

    返信削除
  4. ありがとー。

    いやぁ、29って数字は、なかなかずっしりくるね。あいたたた。マリで誕生日を迎えるのは3回目です。

    われらが母Nからも、おめでとうメィルがきたよ。「え~!?女の子!?と思ってから29年。ちゃらちゃらした女の子に育たなくてよかった(笑)」という、相変わらずのハイセンスなメィルでした。

    お仕事忙しかろうけど、からだに気をつけて。マミ豆ちゃんにもよろしく。

    みく

    返信削除
  5. 29?あいたたた?わたくし、29ですけど!
    年を越したら30やで。お先にー。

    お誕生日、おめでとう!

    返信削除
  6. あら。遅くなっちゃった。
    お誕生日おめでとうー!

    返信削除
  7. >wknぽ師匠

    ありがとう。

    そうかぁ、ぽにょももうすぐ30かぁ。つい数ヶ月前まで海のなかに住んどって、最近になって崖の上にやってきたのにねぇ…時間がたつのははやいねぇ。

    >ryokoちゃん

    ありがとう。

    マリも唐辛子たくさん使う食文化なので、この前、唐辛子とニンニクを使ってなんちゃって韓国料理を作ってみたけど、やっぱり完全にマリ料理になってしまった。なにが足りんのやろう。心意気かね。

    みく

    返信削除