2009年9月15日火曜日

マラリア予防薬。

マリはただいま雨季です。雨季といえば蚊の季節。蚊の季節といえばマラリアの季節。

マラリア:マラリア原虫による伝染病。熱帯、亜熱帯に多く、温帯でもまれに見られる(日本では40年ほど前からみられなくなった)。原虫の種類によって、三日熱マラリア・四日熱マラリア・卵形マラリア・熱帯マラリアなどと呼ばれる。ハマダラカが媒介する。40度を越える高熱、はげしい悪寒、貧血状態、吐き気などが症状。熱帯熱マラリアでは脳梗塞が起こる場合も。

今日は、そんなマラリアの予防薬とそれにまつわるあれこれについて書こうと思います。マラリアが広がるほかの地域には当てはまらない点もあるかもしれませんが、西アフリカに来る予定の方には、ちょっとはお役に立てるかな。そんな人がこのブログを読んではいない気もするけど。

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マラリアの予防薬・特効薬は、時代とともに変化しています。(たぶん)最初に「これはマラリアに効く!」と言われていた成分はキニーネ。戦時中、衛生兵としてタイの戦地にいた祖父からも、マラリアにかかった村人や兵隊さんにキニーネを投与した話を聞いたことがあります。小さい頃おじいちゃんから聞くマラリアは、「南のほうの異国の病気」、「兵隊さんの病気」だと思っていました。まさか自分がかかわろうとはね。

その後、マラリアに有効な成分として、クロロキン、メフロキン、プリマキンなどが登場しました。なかでもマラリアの「特効薬」として長いことちやほやされてきたのが、クロロキンです。これは視覚障害の副作用が問題になったため、日本では1975年から販売中止になっています。でもマリでは――おそらくたいていの他の国でも――クロロキンは販売されています。10錠100CFA(約20円)。マリでもとてもポピュラーな予防薬です。

よく用いられてはいるものの、マリではクロロキンはすでに一昔前の存在と認識されています。クロロキンに耐性があるマラリア原虫がでてきて、飲んでも予防・治療できない場合が多くなっているそうです。クロロキンは安いし田舎でも手に入るので手軽ですが、万全ではない。もちろん、たいていのマラリアにたいする一定の効果はあります。

そして今日、マラリア予防薬で効果的といわれているものはなにかしらん。――わたしはお薬にかんして、「頭痛にはバファリン、下痢には正露丸、かゆみにはムヒ、失恋には時間と新しい恋」ということをかろうじて知っているだけの、完全な文系人間です。なのでここでは、わたしが服用したことのある2つの抗マラリア薬について書きます。ほかにもたくさんの有効といわれる成分や異なる配合があるかと思いますが、それらについてはよく知りません。

〇予防薬として服用したもの
Fansidar(商品名):Sulfadoxine (500mg) の錠剤。1プレート3錠300CFA(約60円)。

「今いちばんヒップでホットなマラリア予防薬をおくれ」と首都バマコの薬剤師さんに相談したら、これを勧められました。業務用みたいな大箱に入っているので、箱ではなくプレート単位で購入します。薬剤師のおじさんに用量を尋ねると、ふむふむと説明書を読みながら、「マラリアにかかった場合はまとめて4錠。予防としてなら、毎食後1錠ずつを一週間続ける。それでワンシーズンは大丈夫!」と教えてくれました。



とても素直なわたしは、せっせと毎食後に飲みましたとも。薬を飲み忘れことがよくあるので、「チェック表」まで作って、順調に飲み続けました。そして4日目の午後…なんか吐き気がする。調査でインタビューの約束があったので出かけるも、インタビュー中もその気持ち悪さは高まっていく。なみだ目でえずきを堪え、どうにかインタビュー終了。とてもいやぁな予感をかかえて、這うようにネットカフェへ向かいました。「この吐き気、これ以外に思い当たる原因はないわ」と、おそるおそるお薬検索サイトdrugpedia(http://drugdpedia.net/)とやらで確認すると――

「用量:発症したら一度に2,3錠。予防には1錠/1週間もしくは2錠/2週間度」って書いてあるやん。そして「過剰摂取」の欄には、しっかり「吐き気」って書いてあるやん。――わたし、マラリア発症してないのに、週に1錠だけでいいものを、4日で計11錠飲みましたけどー?薬剤師のおっさんのどあほ!おかげですっごく気持悪いじゃないか!

あぶないあぶない。あのまま我慢して摂り続けなくてよかったです。過剰摂取時のその他の症状には、「食欲減退、痙攣を含む副作用の症状、誇大妄想、白血病、血栓症、glossitis、crystalluria」とあります。最後のふたつはわたしの英和辞書に載ってすらいない。なにがキラキラglossして、なにが結晶crystallになってしまうのかしら。あなおそろしや。誇大妄想とかに陥らなくてよかったです。謙虚につつましく生きたい人間ですもの。

それにしても薬剤師さん、説明書読みながら教えてくれたのに…あれ、それらしく読んだふりだったのか?それなら資格剥奪!もし薬剤師じゃないなら、白衣なんて着ないでくださいな、まぎらわしい。首都にたくさんある薬局のなかでも、お金持ち地区にあるちゃんとした感じのところに行ったんだけどな…。

というわけで、4日目以降は飲むのをやめました。でもその後しばらく吐き気はつづいたし、手足がむくんだ感じでした。皆さん、【一週間に1錠】です。お間違えなく。こんなすったもんだを書きましたが、もちろん正しく摂取すれば、抗マラリア効果は高いと思います。上述サイトによると、クロロキンでは対応できないマラリア原虫にも有効らしいです。

薬剤師さん(もしくは白衣を着たただの店員さん)を信用しすぎてはいけません。これはわたしも反省。次回からは、説明書を力ずくで奪ってでも、自分で読んで確認するようにいたします。

また、マリでは露店の薬売りさんもよく見かけますが、かれらは薬剤師の資格をもっていません。また、こうした露店で売られているお薬には、たいてい説明書がついていませんし、服用量の案内も書いていません。露店が悪いと言っているわけではないけど、露店のお薬は、ちょっとあやしい。数ヶ月前、政府当局がこの手のあやしいお薬をダンボールごと原っぱでめらめらと焼いて、業者と消費者に「売るな、買うな」のみせしめパフォーマンスをしていたくらいです。ご注意を。

〇かかってしまったときの薬
Coartem(商品名)。主な成分はArtemisinとLumefantrine。24錠入りで5,000CFA(約1,000円)前後(正確な値段は失念)。

予防薬は飲んでいる、でもマラリアにかかってしまった!という場合もなきにしもあらずです。わたしは前回の滞在でおばかにもそれをしでかし、大変な目に遭いました。胃が荒れてしんどかったので予防薬を飲むのをちょっと休んだら、その隙にマラリア原虫がインベード。35度の気温のなかで何枚も毛布をかぶってもガタガタと悪寒が止まらないし、40度の熱が続く。こわかった~。

発症したらなによりまず、ちゃんとした病院へ行くべきです。でも、「車で4時間圏内に病院がない」とか「いやそもそも、交通手段は馬かロバしかない」とか、「病院に行ったけど、ラマダーン中だからお医者さんが早めに帰っちゃってた」という場合には、自分でお薬を飲んだほうがいいと思います。これらはどれも、マリ(の田舎)では普通にあり得る/遭遇したのことのある状況です。

このCoartem、症状がでたらまず4錠、8時間おいてさらに4錠、それ以降は朝晩4錠ずつ2日間、という摂取スケジュールです。わたしの場合にはよく効きました。副作用が少ないらしい(説明書によればね)というのも、臆病なわたしには高ポイントです。発症後3日間で計24錠飲みきりましたが、無理にでもなにか食べてから薬を飲めば、胃は荒れませんでした。

というわけで、今後マリにいらっしゃる予定の皆さまに、これらのお薬情報が少しは役立てばさいわいです。――くどいようですが、わたしはお薬どころか、人生のたいていのことに関してど素人なので、ぜひ、ほかの情報と併せてご参考ください。

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ジェンネでは、赤ちゃんがよくマラリアで亡くなります。でも、抵抗力の弱い赤ちゃんだけがあぶないのではありません。「これまで何度もマラリアにかかったことがあるけど、毎回たいしたことなく治ってきた」という元気そのものの若者でも、場合によっては亡くなってしまいます。

前回のジェンネ滞在のとき、近所に住む同い年の男性がマラリアで亡くなりました。発症して4日。あっという間。病院にお見舞いに行ったときに見た、げっそりやせて震えながらうー、うー、と廃人のようにうめいていたその姿は、正直、近づくのを躊躇するくらいこわかったです。とても悲しくてショックでした。いくらここではよくある病気でも、あなどっちゃだめなんだな、とつくづく思いました。

ちなみに、マラリアになると肝臓と脾臓がはれるそうです。わたしは発症する前日、すごく腹筋が痛かった。激しい運動なんてしてないのに、なんでだろな?と思いながら、痛みをかばって前かがみによたよた歩いていました。その夜は横になるのもつらいくほどの痛み。そして翌朝、一気に高熱しました。あとから思えば、あれは筋肉痛であるはずもなく、肝臓と脾臓の腫れのせいでした。筋肉痛だなんて思ったわたしのおばか。ということで、「覚えのない腹筋肉痛」は、発症直前のシグナルのひとつかもしれません。こちらもご参考まで。

2 件のコメント:

  1. mk_djenneさん
    業務出張でマリへ来ております。一晩で右腕だけで40カ所ほど蚊だと思われますが刺されました。
    まだ発症には至っておりませんが、Blogを参考に薬を入手できました。有り難うございます。

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  2. マリでのお仕事おつかれさまです。せはっちゃんさんを刺したのがマラリア原虫をもっていない蚊だと良いのですが、40か所も刺されると不安ですよね。このような駄文でも人様のお役に立てたようでうれしいです。お気をつけてマリでのご出張を楽しんでください。

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