2009年9月25日金曜日

マリの野菜を食らふ。

ここ数日、「乾季のぶり返し」みたいに暑い日が続いています。40度近い高温とクラクラする強烈な太陽に、乾季にはない湿気も加わっているので、町の皆さんぐったり。わたしもぐったり。

さて、今日はちょっと野菜の話でも。

マリの料理には、たくさんの野菜が使われます。生野菜のサラダは、女性による野菜作りが普及したここ10年くらいで徐々に食べられるようになったと言います。それまでは、マリに葉っぱものを生で食べる習慣はほとんどなかったのだとか。今ではジェンネでも、多くの女性が町はずれに自分のミニ野菜畑をもっています。畑は増水期には水没するので、ジェンネでサラダを食べられるのは、畑が水没しない4月~8月くらです。

こちらのオーソドックスなサラダは、たっぷりレタスにゆでたビート(赤くて甘いサトウダイコン)やじゃがいも、たまにゆで玉子も入っています。ドレッシングは、あまり酸味の強くない酢と油、調味料をあわせたシンプルなもの。大きな器――大家さんちでは、普段は赤ちゃんの水浴びに使われているたらいを使用――で大量に和えて、皆でバケツを囲んでむしゃむしゃ食べます。とてもおいしいです。赤ちゃんがそのバケツを見て、「今からボクは水浴びをするのかな?」と勘違いして、ハイハイ近づいてきたことがあります。

マリのサラダ歴は浅いので、年配の人のなかには、「生野菜なんぞ動物が食らふもの」という認識も根強いようです。マリではやはり、野菜といえば煮込むもの。煮込んだり、杵でペースト状になるまで搗いてからソースに入れるので、ぱっと見たところ野菜が見当たらないことが多い。でも、ちゃんとはいっています。

よくソースに使われるのは、たまねぎ、トマト、オクラ。特にたまねぎとトマトは、必ずといっていいほど使われます。トマトが好物のわたしにはラッキーな食環境です。これらは原型をとどめぬまで煮込まれて、ソースのベースになっています。そのほかにも、バオバブの葉っぱや、こちらでファク(faku, 学名Corchorus tridens)という草をベースにした緑のソースもあります。ソースには、干し魚や何種類もの香辛料が入れられます。これをごはんやクスクスなどにかけて食べます。

原型をとどめたままソースに入っている野菜は、キャベツ、キャッサバ、にんじん、さつまいも、なす、かぼちゃ、などなど。キャッサバは、煮ると大根とおイモの中間みたいな食感になり、くせがないので何にでも合う便利なお野菜です。

こうした日本でも見慣れた野菜にまぎれて、マリに来てはじめて見たものが。マリで「ンゴヨ」と呼ばれているもので、学名はSolanum aethiopicumというそうです。マリやセネガルの料理でよく見かけます。そのまままるごと煮込みます。見た目はこんなの。大きさはこどもの握りこぶしくらい。ぺかぺかぷりぷりしていて、とてもかわいい。↓


このンゴヨ、ネットで調べたところ、「Ethiopian Eggplant(エチオピア・ナス)」とか「Mock Tomato(ニセ・トマト)」とかいうそうな(http://en.wikipedia.org/wiki/Solanum_aethiopicum)。アジアの熱帯にも見られると書いてあります。わたしが持っている辞書では、英語で「トマトとナスに似た野菜」、フランス語で「この地方のナス」とも説明されています。食感も味も、この呼び名の混迷っぷりがあらわす通り、トマトともナスとも言えるものです。食感は、トマトほどぶじゅっとはしておらず(種はトマトっぽい)、ナスほどのしゃくっとした歯ごたえはなし。これらの中間よりちょっとナス寄り。味は、トマトほどのさわやかな酸味はなく、ナスほどしっぽり大人の味ではなし。これらの中間よりちょっとナス寄り。

ナスの苦味を粗野にしたような苦味があるので、お子チャマはあまり好みません。オトナなわたしはこの両者のいいとこどりな絶妙な味が好きなので、誰も手をつけないのをいいことに、遠慮なく食べています。

唐突ですが、わたしの母は野菜が大好きです。仕事では野菜を売り、野菜と果物の勉強にルンルンと取り組み、家のベランダでこぢんまり野菜を育て、ひたすら野菜を食べています。こってりしたお肉は苦手で、ごくたまぁに「血になるものを摂らなきゃ…」と、しぶしぶ無表情で食べています。小柄で細身なからだで、うれしそうにむしゃむしゃと野菜ばかり食んでいる母が、たまにちっちゃな新種の草食動物に見えるほどです。

以前そんな母から、「トマトはナス科の野菜」と教えられ、おどろいたことがありました。ンゴヨは、まさにそれを証明するかのようなお野菜。(トマトはナス科って、知らなかったの私だけかな。)ンゴヨを日本に持って帰って草食動物な母に見せてあげたいけど、生野菜や植物の種って、たしか国を超えて持ち出し・持ち込みはできないんですよね。残念。

ちなみに、キャッサバもンゴヨも、生でも食べらます。生でぽりぽり食べるキャッサバは、瑞々しくてほのかな甘さがあっておいしいです。生のンゴヨも、煮たときよりも苦味が抑えられてさわやかで、ナスとトマトの「ナス寄り」が、こころもち「トマト寄り」に変化します。マリの人の中にも生でンゴヨを食べられない人がいるようで、外国人のわたしがンゴヨを食べていると、「それをよく生で食べられるわねぇ…」と言われたりします。いやいや、おいしいっす。

野菜のこの「ほのかな甘み」というのが、わたしにはたまらんのです。最近やたらと糖度の高さを自慢する果物や野菜の品種・栽培法が開発されて、たいそうなお値段で売られていますが、あれは邪道だと思います。噛んで噛んで、煮込んで煮込んで、苦味や酸味のなかに、ふぅっとほのかに甘みが感ぜられる。わたしはこれくらいが好きです。

というわけで、ンゴヨを試してみたい方は、ぜひ西アフリカにおいでください。それは無理、とおっしゃる方は、軽く火を通したナスを口に入れて、しばし噛んで口に残したままトマトを投入、というお行儀の悪い食べ方をしたら、なんとなくンゴヨを理解していただけるかと思います。

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