2009年9月22日火曜日

Open your mouth!―ジェンネの月の名づけ―

9月21日、ラマダーンの月があけました。

ジェンネではラマダーンの月の最終日(9月20日)、男性たちが町はずれの広場に集まって集団礼拝をおこないます。数千の人がメッカの方向を向いて、いっせいに地に伏して礼拝する姿は、なんとも厳かで圧巻です。今年は前日に大雨が降ったので、場所をモスクに変更しておこなわれました。女性も盛装してこの日を迎えます。家族や友人でおなかいっぱい食べて、おしゃれして親戚や友だちの家に挨拶してまわって、子どもたちはハロウィンのように、大人をつかまえて「おめでとうございまぁす!おめでとうございまぁす!」と騒いでお年玉(ちょっとした小銭や飴玉)をせしめて。楽しい祝日です。

ジェンネで、断食やその月を「ハウ・メ(attach mouth)」ということは、以前ここで書きました。そして22日から始まった翌月の名前は、「フェール・メ(open mouth)」。断食のために閉じてた口を、ぱかっと開く月!なんて素敵なネーミング。

これらにかぎらず、ジェンネ語の月の呼び方に、わたくし常々、萌えているのであります。月の名前に胸をときめかせるなんて、理解していただきづらいかもしれませんが、まあいいじゃない。趣味趣向とはそういうものなり。

ジェンネの月の名前(太陰暦)

一の月  デデウ
二の月  デデウ・カイナ
三の月  アルムドゥ 
四の月  アルムドゥ・カイナ 
五の月  アルムドゥ・カイナ・ヒンカンテ 
六の月  アコダージョ
七の月  アラジャウ
八の月  チェー・コノ
九の月  ハ・ウメ 
十の月  フェール・メ 
十一の月 ヒナン・ジャ 
十二の月 チウシ 

ジェンネ語の月の呼び方には、アラビア語起源のものと、そうでないものがみられます。

一の月「デデウ」については、その意味や語源を何人にも尋ねたのですが、よく分からないとのこと。誰か教えてください。二の月「デデウ・カイナ」の「カイナ」はジェンネ語で「小さい」とか「次~」「副~」といった意味なので、つまりは「デデウの翌月」。二の月は一の月の「ついで」っぽくて、ちょっとかわいそうです。「デデウ?デデウ・カイナ」という、浪速の商人っぽい響きが軽妙な一と二の月。

三の月「アルムドゥ」はアラビア語起源です。預言者ムハンマドの誕生日(almudu)の月、という意味。あら、素直なネーミング。そして四の月「アルムドゥ・カイナ」は、「預言者の誕生月の翌月」。やはりおまけ扱いです。さらにかわいそうなのは五の月「アルムドゥ・カイナ・ヒンカンテ」で、「預言者の誕生月の翌月のその翌月」という意味。サブのさらにサブという控えめな位置づけがされている五の月「アルムドゥ・カイナ・ヒンカンテ」に幸あれ。

六の月「アコダージョ」。これも意味や語源を探ってみたのですが、まだ分かっていません。それにしてもアコダージョ…なんかイタリア語っぽい響きですね。音楽の速度標語「アダージョ(緩やかに)」の弟分みたい。そして七の月「アラジャウ」はアラビア語起源のことばです。

八の月「チェー・コノ」はジェンネ語で「足が暑い」という意味です。たしかに陰暦の八の月ごろ、ジェンネは乾季も佳境に入り、連日40度超えは当たり前。乾季にはだしで道を歩こうものならやけどします(比喩ではなく本当に)。そんな頃にこの月の名前。もしくは、「足」には「おしまい」のような意味もあると考えて、「暑さも佳境」という意味なのかもしれません。いずれにしても、暑さにたいするなんと素直な実感がこめられた月の名前でしょう。

九の月「ハウ・メ」は、うえで述べたとおり。「口をくっつける」という意味の断食月です。つづく十の月は、「わたしたち、断食がんばったよね!」という皆さんの安堵感と達成感がうかがえる、「フェール・メ」(口を開けるの月)。

十一の月「ヒナンジャ」は、ジェンネ語で「お休み」という意味です。宗教の世界で「安息日」というのはありますが、「安息月」にも宗教的な意味があるのでしょうか。ジェンネの「お休みの月」である十一の月は、農業は稲刈り直前、漁業は繁忙期、牧畜業は放牧の旅を終えて大移動――と、むしろ皆さん忙しい時期にあたります。休んでいる暇はありません。

そして十二の月「チウシ」。これはアラビア語起源のことばで、雄羊を意味します。太陰暦の最後に、他のイスラーム圏ではaid al adhaなど、マリでは「タバスキtabaski」と呼ばれる、羊の犠牲祭があります。各家庭で気前よく雄羊を一頭ほふって盛大にお祝い。羊にとっては恐怖の月だと思いますが、わたしたち人間には、日本でいう大晦日~元日のような厳かかつうきうきわくわくなお祭りです。雄羊をほふるから、最後の月は「雄羊月」。なんだか星座のおひつじ座みたい。あ、おひつじ座もたしか12月の星座ですね

――どうですかね。八、九、十の月あたりなんて、特にそそられませんか。あと、「・・の次」としか言われない二、四、五の月が、ちょっと切なくありませんか。十二の月のなかでどれが一番かを選べといわれても難しいですが、あえて選ぶなら「アルムドゥ・カイナ・ヒンカンテ」かな。もっともないがしろにされている感じなのに、響きは端正に硬質で、声にだして読むと心地よい。

分かっていただけましたかしら、ジェンネ語の月の名に萌えるわたしの気持ち。

分かるかなぁ~分かんねぇだろうなぁ~ by 松鶴家千とせ。
(分からないヤングはこちらをご覧ください。↓
http://www.youtube.com/watch?v=Olnu4wUlRL8 )



ジェンネの月、長屋の屋上から。月ってなんでいつも、写真に撮るとこんなにちっちゃくなってしまうんだろう。目で見やるとあんなに大きいのにね。

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