2009年8月1日土曜日

休み。

ちょっと調子にのって、調査中にもかかわらず一週間ほど旅行に出かけておりました。まぁ、毎日24時間が休みのようで毎日24時間が仕事のようなフィールド・ワークにあって、こうして徹底して「休み!」と決めて休むのは、よいリフレッシュになりました。

この小休止のあいだに、数ヶ月ぶりに日本語の本をいくつか入手して読みました。マリで日本語の本を入手できないうえに、調査地にいると調査に直接関係しない文献を読む・入手できる機会はなかなかないので、うれしいかぎりでした。

ということで、調査地からの近況報告というこのブログの趣旨からはちょっとそれますが、久々のそぞろ読書のメモをば。

幸田文『おとうと』新潮文庫、1968年。
岩中祥史『博多学』新潮文庫、2002年。
藤沢周平『一茶』文春文庫、2009年。
斎藤貴男『安心のファシズム―支配されたがる人びと―』岩波新書、2004年。
森達也『悪役レスラーは笑う―「卑劣なジャップ」グレート東郷』岩波新書、2005年。

幸田文は文章がとても端正で、あらゆる描写が言い得て妙。美空ひばりに「あなたお唄上」手ですね」と言うようなものだけれど、やはり、「文さん、描写お上手ですね」と言いたい。幸田文のような年上の女性が友人にいたら素敵だろうけど、こんな細やかな観察眼と表現力をもった人が自分のお姑さんだったらチョット困るな、といつも彼女の作品を読むと思います。内容はタイトル通り、自身の弟とのことを描いたものです。

『博多学』では、博多・福岡の人びとの気質が、その歴史や祭りと絡めて軽妙に紹介・説明されていきます。いたるところで福岡人が絶賛され(ヨイショされ?)ているので、福岡を愛する福岡出身者の私は、これを読んでまぁ悪い気はしません。ただ、こんなライトな資料やインタビューの収集で本が一冊書けてしかも売れちゃうんだぁ、ふぅん、いいわねぇ…、という意地悪な気持もおこりました。私はそう思われないような豊かな論文を書かないといけないな、と気持ちを引き締めさせられました。

藤沢周平の『一茶』は、俳人・小林一茶の一生を描き出す伝記もの。これもまた、しっとりとした描写がいちいち的確。彼の小説はいくつも映画化されているようだけど、まぁ確かに、邦画を作っている人はこの世界を映像化したくなるんだろうなぁ。渋いけれどどこか多くの人に共感してもらえるポピュラーな要素があり、昔の話だけれど今にも通じる人間の普遍的な弱いところも描かれている。渋さや玄人感とポピュラリティを美しく統合しているところがすごいなぁ、と思いました。ここで描かれていた一茶の意外な俗人っぷりも、切なくて良いものです。

斎藤貴男『安心のファシズム』は、ネオリベラル・ネオコンサバティヴが侵食する現在の日本や世界の状況で、「支配されたがっている」人びとはどのように形成されつつあるのかを書いたもの。携帯とか住基ネット、自動改札、ブッシュ、小泉などをめぐって、それに批判を示しながら論が展開されます。本著が思想的に偏っているとは思わないし、わたしも世界を覆うネオリベ・ネオコンには強烈な違和感と失望感をもっていますが、筆者の本著での主張の仕方が、少々うっとおしい。そのせいで、「論」というより「自分はこれが嫌い!」という地団駄踏みながらの主張に聞こえてしまう。あ、でもきっとこの印象は、彼のせいではなく、私がこの本を読む直前に幸田文の文章を読んでいたからかも。

だから、その後に読んだ森達也の『悪役レスラーは笑う』のほうが、私にはしっくりくるのです。森達也独特の、常にもそもと躊躇していて自分にどこか自信がもてないでいる感じ、でもその裏には常に、どうしても皆さんに聞いてほしいこと、共有したいことがあるんです、という緊張感もあり、また、的確で巧みなストーリーテリングの才があるところが、カッコイイなぁ、と思います。内容はうまく説明できませんが、タイトルから「プロレス本なんて…」と敬遠していてはいけません、女子の皆さん。これは薄っぺらな「ナショナリズム」への真摯な批判本です。おもしろかった。


そんなのんびりした一週間もおしまい。自分を甘やかして休みすぎて、ちょっとフィールド・ワークの感覚が鈍ってきたのでは、とちょっと心配になってきました。

というわけで、日曜日くらいにジェンネに戻ります。休みで怠けた心とからだにとっては、なんだか戦場に戻る気分です。気もちを切り替えて戻らなきゃ。

3 件のコメント:

  1. 内村 匠一朗2009年8月2日 9:03

    未来伯母さん、おはようございます。まちこバーバの孫です。夏休みになってすぐ、一人で福岡に来ています。伯母さんの事バーバから聞いてブログを見せて貰いました。すごい!僕は福岡も遠かったのに、ごはんどうして食べるの、お話どうするの?お勉強するために行ってると聞きました。がんばって下さい。

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  2. しばらく更新が中断してたから心配してましたよ。KE先生が「どうしてるかなぁ」とぼやいていたので、「元気でっせ」と伝えておきました。wkn in 大阪中です。

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  3. >匠一朗くん

    ブログを見てくれてありがとう。

    前に匠一朗くんを見かけたときにはまだ小さな男の子だったので、もう1人で福岡まで旅行に来たり、インターネットをするほど大きくなっているとは、驚きました。

    こちらの人たちとのお話はね、いくつかの言葉でしています。国の公用語のフランス語と、ジェンネの町の人びとにいちばんよく使われているジェンネ語、ほかにはバンバラ語などです。町の人はもっとたくさんの言葉を話すけど、わたしはこの三つしかまだ覚えきれていません。

    こちらのご飯もおいしいよー。日本と似ていて、お米とお魚が主食です。海がないので、お魚は川の魚です。知り合いのご家族の家で、おじさやおばさん、子どもたちみんなといっしょに食べてるよ。

    こちらでの生活を楽しんで、しっかり勉強してこようと思います。匠一朗くんも、福岡での夏休みをたっぷり楽しんでね。マチコさんにもよろしくお伝えください。

    みくおばちゃん

    >wknぽ女史 at home関西

    そうなのです、旅行中はインターネットフリーになろうと、更新をさぼっていました。ご心配おかけしました。

    きょうフィールドに戻ろうと思ったら、長距離バスが故障して出発せず。またバス便のある水曜日まで首都で待機するはめになりました。さすがに10日以上フィールドを離れると、なんだかとてもフィールド・ワークの過酷さが恋しくなります。こんなにのんびりしとったらダメ人間になってしまう、はやく仕事したい。そんな殊勝な感じっす。

    久しぶりの?大阪、ゆっくりしてくださいな。

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