2009年8月5日水曜日

結婚式~お役所編~。

小休止を終えてすでにフィールドに戻っているはずでしたが、直行バスが故障してしまい、首都に足止め。そろそろ、ジェンネにいないあいだにあちらで起きているかもしれない出来事から取り残されていやしないか、と不安になってきました。明日の夜には戻れそうです。気が急いてきます。

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さて、きょうはジェンネの結婚式のはなし。先月、二度ほど近所の人の結婚式に参加してきたんです。

3月から7月くらいは、ジェンネで結婚式がさかんにおこなわれます。特に結婚式はこの期間に、と決まっているわけではないけれど、ちょうどいい時期なのです。つまり、乾季なので雨の心配もなく、家業である農業・漁業・牧畜ともに忙しくなってくる雨季の前にすませてしまおうかね、というわけです。

最近のジェンネの結婚式には、二種類あります。役所での式と伝統的な式。役所での式は、役所語である公用語フランス語でmariage administratif(行政結婚式)。いわゆる古くからずっとおこなわれている伝統的な式は、ジェンネ語で「ヒージェイ」といいます。

ちょっと長くなるので、今回は行政結婚式の話を中心に。(ヒージェイについてはまた今度)

二種類の結婚式のうち、役所での式が先です。数日間(昔は一週間、最近は3日間が平均)つづく式の初日に、新婦はウェディングドレスを、新婦もスーツや立派なブーブー(立派な頭貫着)を着て、市役所に向かいます。結婚はしなくてもいいけど、一生に一度は、ああいういかにもドレス!という感じの一張羅を着てみたいなぁ、おなごですもの…などと思いつつ、私もそれなりにめかしこんで、カメラぶら下げついていきます。新郎新婦の同輩や若い親族たちも、同じく盛装してぞろぞろと役所へ。

日によっては5組くらいのカップルとその仲間たちがやってくるので、市役所とその前の広場は、押し合いへしあい、縁日のような賑わいです。その人びとをあてこんだジュース売りやグリオ(ひとを誉めたたえる歌を―半ば強引に―歌ってきかせてお金をもらう詩人)などもいるくらいです。皆さん商魂たくましきかな。

役所での式は、日本でいう婚姻届の提出のことです。でも、紙に記入して提出してハイ受理シマシタ、というだけではなく、その場で市の助役から結婚生活の心得を聞かせられ、2人の証人と本人たちがサインをする、という流れです。以前はこうした婚姻届を出さないまま結婚生活をしていても特に問題なかったそうですが、ここ10年ほどで「市民」とか「子どもの公教育」といった考えが田舎町のジェンネにも定着してきて、「きちんと届け出をしたほうがいいよね」という家族が増えたと言います。

さらっとおこなえば何ということもない無味乾燥な役所的な手続きですが、なにかにつけて派手好き、なにかにかこつけて盛り上がろとするマリの人たちは、それすらも華やかなお祭りにします。6畳ほどの役所の狭い部屋で新郎新婦がサインをするときには、どこからか人びとが乱入してきて、人いきれでむっとするほど。カメラマンを雇ってその様子をバシバシ撮らせたり(実は私もカメラマンとして、新婦の父親に頼まれて役所に送り込まれた)、新郎を終始ひやかすお調子者が、助役から「お前、新婦が美人だから新郎に妬いてるんだろ~、ちょっと黙っとれ」などとたしなめられたり。



助役さんが結婚生活の心得(「妻と夫は互いにいたわりなさい」とか「困難があったら二人で協力しあいなさい」など、日本の結婚式のベタな祝辞のようなもの)を言い聞かせます。助役秘書が「結婚生活の手引き」のような小冊子を見ながら小声・早口でフランス語で述べ、助役さんがそれを分かりやすく訳する形で、バンバラ語(マリでもっとも話者の多いローカル・ランゲージ)で新郎新婦に語りかけます。フランス語は公用語でも理解できない人が多いので、なじみのある言語に訳すのです。

そして最後に、一夫多妻か一夫一婦か、この夫婦はどちらを選択したのかを確認します。マリでは男性は4人まで奥さんがもてるのですが、夫婦で婚姻時に話し合って、一夫一婦を選択することも可能です。首都では一夫一婦を選択する若い世代も増えてきたと聞きますが、ジェンネではまず例外なく、一夫多妻が選択される、といいます。以前このことについて問うた私に、同年代の男性陣が口をそろえて、「ここで一夫一婦を選択したら、すでに嫁の尻に敷かれていることになるじゃないか!別に後々第二夫人を娶る予定がなくたって、ここはビシっと一夫多妻で!」とのこと。はぁ…殿方の見栄、意地…。でも、そのしょっぱなの意気込みも空しく、たいていの場合、数ヵ月後にはたいていの夫が妻の尻に敷かれているように見えなくもない。どこも一緒です。

この日わたしが見た二組も、一夫多妻制を選択。――といっても、この時点で夫に妻を複数もつ"権利"が成立しただけであって、実際にはお互いの気持ちだとか経済的な理由とかで、複数の奥さんをもつことなく終わる場合もあるようです。

さて、最後に証人と新郎新婦のサインです。新郎側、新婦側それぞれの証人がまず書類にサイン。そして、新郎新婦がサイン。この日は二組同時に行っていたのですが、どちらの新婦も学校には数年しか通っていなかったそうで、フランス語を解しません。だからサインも、たどたどしく握ったボールペンで、ぴーっと棒一本。「ペン持ったのなんて久しぶりぃ…」と恥ずかしがる新婦に、「棒一本書いときゃいいんだよ~、お前が書いたっていうのが分かればいんだから」と笑顔でたしなめる新郎が、なんともほほえましく、いつの間にか窓にもあふれている見物人も、にっこりほっこり。



たいていの子どもがコーラン学校に通うジェンネでは、アラビア語の識字率のほうが高いのかもしれません。この日の二人の新郎も、サインはアラビア語。フランス語で印刷された婚姻届の文章の下に、ぷるぷる震えた、でもどこか新婦のはじらいが愛らしく表れた棒一本のサインと、ちょっとかっこつけたシュっと丁寧なアラビア語のサイン、という並びが、なんともジェンネらしくて面白いなぁ、などと思います。

サインが終わり、助役と新郎新婦ががっちり握手。まわりの見物人から、「おめでとう」とか「チューしちゃいなよ、チュー!」などと言葉が飛び交います。新婦がはじらい、チューならず。20分たらずで式は終わりました。そして堂々と市役所から出てくる二人。新婦18歳、新郎20歳。若くて瑞々しい夫婦です。おめでとう。



結婚願望はかなりぺらぺらと薄い私ですが、こういうのを見ると人並みに、いやぁいいもんだなぁ、伴侶ねぇ…としみじみします。我が三十路ほど近く、春まだ遠し。


この後さらに、伝統的な式ヒージェイが続きます。

2 件のコメント:

  1. こんちは!いいですねえー役所で結婚式!私も「今回の」結婚では役所まで赤絨毯をごろごろ引いてやろうと画策してましたが、入籍自体が面倒くさくなった末に随分経ってから届けを出しました。mkねえさんも婚姻届はどうぞ赤絨毯で役所まで。

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  2. >ちゅばきさん

    あ、ちゅばきさん登場。

    役所でその場でサインする、ていうのは、旧宗主国おフランス式らしいっす。でももちろん、フランスではこんな賑々しいことにはなってないと思ふ。ささっと、当人同士で済ませるのでしょう。わたしはいかにもお役所的な手続きをはるかに大きく呑みこむ、マリの人の勢いが好きであり、たまに疲れ、でもやっぱり好きな気がします。

    ちゅばきさん、あんなに飛んでる状況で、役所まで赤絨毯とか考えてたの!?しかも冗談に聞こえないところが、ちゅばきマジック。

    じゃぁわたしも、一回目は赤絨毯、二回目は緑絨毯、三回目は…と7回目にして虹色を制覇して、「結婚は虹色だった」と死に際に言ってみようと思います。

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