2009年3月4日水曜日

Chine au Mali

チャイナタウンは世界中のたくさんの都市にありますが、マリにも多くの人が中国からやってきています。

今回バマコを歩き回って、前回滞在した1年前より、目に見えて中国人が経営するお店(レストラン、雑貨・食料品店)、企業(大きな建築会社など)が増えたように思います。

バマコで泊まっているホテルのすぐ近くに、一軒の中華料理屋さんがあります。中国人のご一家が経営しています。その名も、「レストラン・パンダ」。なんて分かりやすい名前。手ごろな値段(500円くらい)で、多彩な本場の味が楽しめます。

マリの料理は大好きですが、せめてバマコにいる間は、ジェンネでは食べられない中華料理を食べたい!と、
ほぼ毎晩、パンダへ足を運びました。

食事するスペースは、晩には経営者一家のリビングにもなります。夕飯時に行けば必ず、6人くらいの皆さんがテーブルを囲んで、中国の衛星放送を見ながら晩ごはんを食べています。人の家のお茶の間におじゃましちゃった気分も楽しめます。

バマコ最終日にパンダに行ったところ、ご一家のリビング兼レストラン席で、にぎやかにカラオケ会が催されていました。いつも見る一家のほかに、店主の友人とおぼしき数人の男性も。

ちょっと疲れていたので、さすがに大音量のカラオケのなかで食事は…と思い、そこからは仕切られた席に座って、もりもりごはんを食べました。

聞こえてくるカラオケは、もちろん中国語の歌です。男性たちの歌声はどれもちょっと調子が外れていましたが、一曲だけ歌った奥さんの歌声は、高音が澄んでいてのびやかで、なかなか素敵なものでした。食事をする私の後ろで、拍手や歌い手をはやし立てる声が、賑やかに響きます。

お会計のときに、今まで話す機会のなかった奥さんが、ちょっと緊張気味に、たどたどしいフランス語で話しかけてきてくれました。40代後半くらいの女性です。

奥さん「歌を歌うのは、お好きですか?」
わたし「下手ですが、好きです。先ほど歌っていたのは奥さんですよね?とてもよかったです」
奥さん「あら、うふふ。あなたもどうぞ、歌っていってください。英語の歌や日本語の歌もありますよ。あなた、日本人でしょ?」
わたし「はい。ただ、今日はちょっと歌うのは…またの機会にします」
奥さん「いつでも歌いに来て下さいね。食事も、いつでもね。娘はフランス語、ちょっとしゃべれますから」

一家には、二十歳前くらいの、細身の美人な娘さんがいます。奥さんは私が行くといつも、にこっと笑って何か言いたそうにしていました。どうやら、一家団欒のとなりで毎回ひとりで食事しているわたしを、かわいそうに思い気遣ってくれていたようです。娘なら話し相手になるわよ、と言いたかったようです。

パンダからの帰り道。

彼女の気遣いがうれしかった一方で、10年前の私には思いも及ばなかった、「マリの街でひとりで食事をして、そこの中国人の奥さんに、フランス語で心配される」自分を思い、テレサ・テン『時の流れに身をまかせ』が頭から離れませんでした。

あのとき人類学を選んでなかったら、今頃なにをしてたのかしらん、と。

♪ もしもあなたと 出会わなければ
  わたしはなにを してたでしょうか
  あなたと違う だれかを愛し 
  普通の暮らし してたでしょうか ♪


さて、

増加する中国の人や資本を、よく思っていないマリ人の声もたびたび耳にします。つい先日も、ある布売りの女性が、「中国がマリのワックス・プリント(ロウケツ染め布)を真似て作って、『マリの布だ』って言ってあちこちで安く売ってるのよ。こっちはもっと上質のを売ってるのに、迷惑なもんだわ」と言っているのを聞きました。真相は分かりませんが、彼女がそう言いながら不満そうにしていたことは確かです。

また、低い賃金でマリの大工さんを工事現場で働かせている、といった噂とか、イスラームの国にやってきてあちこちにお酒を提供するバーを開設していることへの警戒なども強いようです。

一方で、独立後に社会主義をとり、東側諸国との関係が強かったマリには、中国に留学した経験をもつインテリの人もたくさんいます。民主化した今でも、中国との経済的なつながりは、両国の上層部がまめに行き来しているくらい密です。2月には胡錦濤が来マリして、首都のまんなかを流れるニジェール河にかける新しい橋の建設全額支援を申し出て帰っていきました。

数多くのマリ人商人も、中国でビジネスをしています。(この点は、国立民族学博物館の三島禎子先生の
ご研究に詳しいです)

これからマリと中国の関係は、どうなっていくのかしら、マリの中国人は、どうなっていくのかしらん、わたしは今回の調査でいい成果が得られるかしらん、嗚呼、さっきパンダでテレサ・テン歌っとけばよかった…

などなど、とりとめもなくいろんなことを考えた、首都バマコの夜でした。

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