2009年11月6日金曜日

赤ちゃんことば。

4日間、マリの国内小旅行に行ってました。ペイ・ドゴンと呼ばれる地域です。この旅行の詳細については、またあらためて。

きのう家に着いたときのこと。わたしが出先から長屋に戻ってくるといつもいたクンバ姐さんが、いない。死んでしまったことはもちろん分かってはいたけど、どこかで信じてなかったので、現実を突きつけられた感じでした。からだのまんなかにポカンと穴が空いて、つい、旅行のバックパックを背負ったまま泣いてしまいました。

いつも、はにかんだ顔でわたしに「やぁミク、おかえり」と言って握手し、息子たちに「ほら、ミク姉ちゃんの荷物を部屋まで運んであげな」とテキパキ命じて迎えてくれていたクンバ。大好きなひとが亡くなったということを実感するのは、慌しく過ぎていくお葬式のときよりも、こういう何気ない瞬間です。

さて、めそめそしていても始まりません。旅行なんぞしたぶん、やるべき仕事もたまってるし、もりもり頑張らないと。元気をだすために、きょうはジェンネの赤ちゃんことばについて書こうと思います。この世を去る人もいれば、ぽんと生まれてグングン大きくなっていく人もいるのです。いやぁ、やっぱりこういうときは赤子パワーよねー。

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〇飴玉
フランス語でボンボン。もともとマリにはなく植民地支配後にフランスがもたらしたものなので、マリでも飴のことはボンボンと呼びます。でも、赤ちゃんが発すると、たいてい「もんもん」になってしまう。お兄ちゃんお姉ちゃんたちがボンボンを食べていると、「もんもん!」と叫んでおねだり。

あぁそんなかわいいおねだりされちゃうと、つい、いくらでも飴ちゃんをあげたくなってしまう。でも、こちらの子どもは歯を磨く習慣があまりないので――つい最近まではこういう甘いものは身近でなかったので、歯を磨かなくても虫歯にならなかったそう――、ぐっと我慢。お祭りなどの特別な日に、知り合いの子どもに一粒ずつ、「はい、もんもんだよ」と言いながらあげます。

〇小鳥
これは赤ちゃん自身が言うのではなく、おとなが「ほら、小鳥さんだよ~」という感じで赤ちゃんに語りかけることば。「ちゅぅちゅ」といいます。日本語のすずめやねずみの鳴き真似に似てますね。

お父さんやお母さん、お兄ちゃんお姉ちゃんが、赤ちゃんをだっこして小鳥を指差しながら、「ほらっ、ちゅぅちゅ!」と言っている姿は、赤ちゃんとセットで、なんと幸福な光景&響き。

〇チュバブ
マリで「白人(外国人)」を意味することば。日本語風にすれば「がいじん」といったニュアンスで、あまりいい言葉ではありません。でも、赤ちゃんはそんなこと知ったこっちゃないさ。お兄さんお姉さんの真似をして、わたしのことを「チュバブ」と呼びたいけど、まだ舌足らず。たいてい、「ちゅあぅ」となる。

あるていどの年齢の子どもに「チュバブ!」と呼ばれたら、「わたしにも名前があります。『白人!』と呼ぶのではなく、まずは名前をたずねるのが礼儀じゃないかね?『そこの黒人!』と声をかけられて、君たちはお返事をするかね? ん?」などと説教する、われながら面倒くさい意地悪ばあさんなわたし。でも、赤ちゃんに「ちゅあぅ~」と呼ばれたら、つい「あら、なぁに?」と優しく返事をしてしまう、ふぬけなわたし。赤ちゃんって得ね。

〇羊
ジェンネのいたるところでうろうろしている羊。赤ちゃんはなぜか、羊さんが大好き。同じくジェンネにたくさんいるロバほど大きくなく、野良犬ほどハードな雰囲気を漂わせておらず、鶏や鴨ほど予想外の動きをしないからでしょうか。羊を見かけると、たいていの赤ちゃんが、「んべー、んべっ!」と指さして大興奮。

「んべー」とか「んべっ」は、羊の鳴き声をまねたもの。日本で羊の鳴き真似といえば「め~」ですが、実際に聞いてみると、「んべー」のほうが正確に再現している気がします。誰が教えたわけでもないのに、赤ちゃんの声帯模写能力、おそるべし。

〇礼拝
これはことばではなく、仕草ですがご勘弁を。

1日5回の礼拝をかかさないお父さんやお母さんを見て、赤ちゃんも礼拝のまねをしたがります。おでこを地面につける姿勢をまねようとするも、たいていの赤ちゃんは失敗。

皆さんご存知のように、かれら赤ちゃんは、からだ全体に比して頭が大きい。腕の力もない。なので、頭を地面ぎりぎりまで下げようとすると、重いおつむは重力に負けて、そのままごん!と地面にぶつかってしまいます。そして大泣き。

でも、メッカに向かっておじぎのようにひょこひょこと頭を下げている姿は、ほんとうに愛らしい。こうやって礼拝を覚えていくのね~。

2 件のコメント:

  1. 素朴な疑問なのですが、マリでの「赤ちゃん」の定義ってどんなかんじなんでしょうか。
    アラビア語圏にいるのですが、どうも「赤ちゃん」がいない気がします。「babyをアラビア語でなんていうの?」と聞いても「・・・子供?」としか返ってきません。「子供」と「大人」は存在するのですが。。。

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  2. >Tanakaさん

    マリでも、わたしの知る限り、「赤ちゃん」そのものを意味する言葉はないような気がします。たとえばジェンネ語では、赤ちゃんを指すときに「イジェカイナ(小さい子ども)」という表現をよく使います。でも、あくまでもこれは比較の問題のようです。

    場合によっては、たとえば15歳と10歳の子どもがその場にいて、より小さな10歳のほうを呼びたかったら、その子も「イジェカイナ」。さすがに20歳を超えるくらいになると、「ウォイカイナ」(若い女性、娘)「ハルハイナ」(若い男性、青年)と呼ばれますが。

    いやぁ、たしかに不思議ですね。「赤ちゃん」がいない言語。探せばあるのかなぁ。おもしろそうな問題なので、わたしもときどき聞いてまわってみようと思います。

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