2009年11月17日火曜日

フフ・デルヴェの季節。

むかし社会科の授業で、「砂漠気候は、昼夜の寒暖の差(日較差)が大きいことが特徴」と習った記憶があります。「砂漠は暑い」というイメージしかなかった、中学生のわたし。「夜の砂漠は10度以下になることもある」という先生のことばに、ほぅ、そりゃぁすごかですね、と驚いたものでした。10年後、それを身をもってそれを実感しようとは。人生は分からないものですな。

マリは、国土のおよそ半分がサハラ砂漠に覆われている砂漠の国です。「砂漠の民」とも呼ばれるトゥアレグの人たちを除いて、人口の大半が、砂漠でない国の南半分に暮らしています。今わたしが住んでいるジェンネは、サハラ砂漠からは直線距離で300kmくらい離れているので、砂漠気候ではありません。そのすぐ南縁の、乾燥サバンナ気候です。

でもやはり、この季節(11月~2月)は、昼夜の寒暖の差がおおきい。さすが砂漠に近いだけあるわ。最近、少しずつ、朝晩は冷えるようになってきました。お昼には30度を超える気温でも、夜は毛布なしには眠れないほどです。暑い季節には、屋上か中庭で眠るわたしですが、さすがに今の時期は、部屋のなかで眠ります。そうでないと風邪をひく。

牛の群れをつれて放牧生活をする牧畜民フルベの男性などは、部屋のなかでは眠れません。日々移動なので、せいぜいテントか、外での野宿。家々の密集した村や町のなかならともかく、荒野のなかでぽつんと野宿は、かなり寒いことと思います。だからこそ彼らは、羊毛で布を織る技術を発達させたのだと思います。

マリの布はコットンが主流ですが、フルベの伝統的な布といえば、羊毛布です。牧畜民だから羊を飼っていて羊毛が手に入りやすい、というのが第一の理由でしょうが、「寒い」というのも大きな理由かと。羊さんの毛はあったかいものね。この伝統的な羊毛布、モチーフが細やかで、色調が抑えられて、とてもきれいだと思います。



防寒着が必要なのは、牧畜民にかぎりません。マリの人はそうじて、暑さには強いが、寒さにはてんで弱い。日本の冬の寒さに慣れているわたしには「ちょっと肌寒いな」くらいの冷えでも、こちらの人は「おぉ寒い寒い」とガタガタ震えています。

あるお話をひとつ。マリは元社会主義国なので、いまでも外国留学先として、旧東側のロシアやウクライナ、中国などが一般的です。旧ソ連時代、モスクワの大学へ留学したあるマリ人男性。なにを思ったか、一週間後にマリに戻ってきてしまいました。理由は、「モスクワは寒かった…死ぬかと思った」だって。ほんとの話です。

資金面・能力面ともに、誰もが行けるわけではない数年間の外国留学。それを「寒かった」からと、一週間で棒に振るなんて! わたしは、この話を聞いて「冗談やろ?」と笑いましたが、一緒に話を聞いていたマリの人たちは、「あぁ、そりゃかわいそうだ…」「寒かったろうねぇ…」と、その男性に真剣に同情。――まぁそれくらい、皆さん寒さに弱いということです。



ニット帽子をかぶり、コートをちょいとひっかけさすらうジェンネっ子。



ちいさな子どもは、この季節、たいてい防寒用にフードか帽子をかぶせられています。食べちゃいたいくらいかわいいねー。



ジェンネの月曜定期市。この日の昼の気温は30度。そんなピーカン太陽のもと、売られているのは裏地が起毛のウィンドブレーカーと毛布。昼間はどんなに暑くとも、夜にはこれが必要になるのです。

ジェンネ語で、寒さのことを「フフ」、バンバラ語では「ネネ」ですといいます。どうしてどちらもくり返すのかしら。ジェンネ語で服のことを「デルヴェ」というので、この時期のもこもこ防寒着は、「フフ・デルヴェ」と呼ばれます。

日本もすっかりフフ・デルヴェの季節なんだろうなぁ。日本の冬の朝の、「あぁ布団から出られない! でも起きないと遅刻してしまうぅ…」という、あの幸福な葛藤が、ちょっとなつかしいです。

6 件のコメント:

  1. 日本、すごいフフだよ。朝の布団、それからコタツで寝ちゃいけないけど寝てしまうってやつも……。つらい。私も寒いの嫌いなので、モスクワから帰っちゃう気持ちも分かります。

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  2. フフやでー。布団から出づらく、先日は起きた瞬間「いや、もう一回寝てもいいよ」とうっかりもう一人の自分に偽の許可をいただいてしまうところでした。うっかり、うっかり。

    mikuちゃんが帰ってくる頃も、フフやねー。

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  3. >たまこちゃん

    あ、そういえば寒いのがとっても苦手なんよね、たまこちゃん。わたしは寒いのもきらいじゃないけど、やっぱりトンコツ九州っ子やからか、暑さのほうに強いねー。

    それにしてもモスクワ帰りのお兄さん、あっちが寒いことくらい事前に知ってたやろ、って思うけどね。想像以上の寒さやったんやろか。

    こちらの人に「日本は雪が降る」といっても、想像つかんみたい。「氷?」って聞かれるけど、もっとふわふわしとるし…「やわらかい氷かな」って説明したら、「そんなのありえない!」って怒られるし。

    世の中想像がつかないことだらけや。

    >ぽwknちゃん

    フフかー。

    わたしは冬はちゃんちゃんこ(「ちゃんちゃんこ」って方言かな?もこもこの綿入れね。)ご愛用よ。眠るときもそれを布団のなかに入れておいて、布団から出るときにはそれをさっと着る。たまにうっかりその姿のまま宅急便の受け取りとかに出てしまうのです。

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  4. お久し振りです。あなたのお陰でマリをこたつで楽しんでいる、マチコばーばです。ところで今日は未来ちゃんにお許しを戴きたくてメールしています。私が11月27日に中学校の3年生の・おばあちゃんのお読み聞かせ・授業に15分間の担当が回ってきました。その時に貴女の(マリ通信)の2009年11月6日ジェンネっ子の誇りが・・・とフフ・デルヴェの季節を印刷して中学校の学生に話して聞かせたいと思い、その許可を戴きたくメールしました。活字になれば著作権が生まれるのでお許しいただければ、中学生の好奇心ちょいと石でも投げ込んでみようかとおもいたったしだいです。お返事まっています。

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  5. >まちこさん

    日本は寒くなってきたそうですね。風邪などひいてませんか。

    中学生への読み聞かせの件、どうぞどうぞ、こんな駄文でよければ、どうぞ使ってください。このブログの目標(って言ったらおおげさやけど)は、「マリやアフリカについてほとんど知らない子どもからおじいちゃんおばあちゃんまで、マリのわたしの日常生活がなんとなく分かってもらえるブログ」というものなので、中学生に読み聞かせてもらえるのは、とてもうれしいです。

    みく

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  6. 兄です。自転車の方の。

     ニット帽のおじさんの写真、なんか見たことあるなぁ~?・・・と思ったら、兄が撮った写真だったりして。あ、自転車の方の兄ね。
     
     俺が訪れた年末年始、確かに朝晩はちょっと肌寒かったよ。荒野で野宿してる時は、夕食後テント内に入ってすぐくらいは暑くって、寝袋なしでシーツだけ羽織って寝るんだけど・・・。夜中に寒くなって、寝袋を引っ張り出し・・・。明け方には寝袋に入って寝てました。
     でも、ジェンネっ子の寒がりぶりには、ちょっと驚いたくらい。まぁ、暑い土地だから、納得ですけども。

     ちなみに、現在米国走行中の兄は、毎日氷点下の屋外で寝ています。朝、テントから這い出してまず見るのは温度計。-2~3℃だったら、「やっぱりね。やたらと温かかったもん!」などと、独りで強がり言ってます。

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