2009年4月16日木曜日
Baby understands. ―おまもりの話。
強烈な日差しです。日焼け止めもまったく効果なし。そろそろ三十路なのに、夏休みに宿題をほったらかして遊びすぎた小学生、みたいな見事な色黒に仕上がっております。
ここ数日辛いことがあって、うまく気持ちがのりません。でも「悩む」とか「悲しむ」というのにも若々しい体力が要るようで、5年くらい前までのように、ひねもす悩み通したり泣き明かすような悠長な暇と根気はありません。どんなに落ち込んでいても、さぁインタビューだ、あぁ洗濯しなきゃ、おっと調査ノートまとめなきゃ、と気を張れば、ひょいひょい体が動いてしまう、意外に丈夫で仕事に律儀な自分。悲しむことに耐性ができること自体、とても哀しいけれど、オトナになるって、多分こういうことなのです。
さて、おセンチを晒してしまったそんな日は、かわいい赤ちゃんのお話で気恥ずかしさをごまかしたいと思います。マリの赤ちゃんの「おまもり」の話。
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マリの赤ちゃんの腕、首、腰、いたるところに御守がついています。特に人々が信心深い宗教都市ジェンネでは、その数はよそに比べて多いように思います。こうした御守をジェンネ語で「ティラ」と言います。
ティラのほとんどは動物の革でできていて、皮紐にいろいろなものが縫いつけられています。フランス植民地支配が及ぶまで通貨として流通していた貝だったり、馬のしっぽの毛、マラブー(イスラーム僧)が
コーランの一節を書いたありがたい紙、などなど。
特にコーランを書いた紙片が縫いこまれた御守は、ジェンネではとてもポピュラー。赤ちゃんに限らず、子供、大人も身に付ける場合があります。(写真の黒い四角形が連なっている御守)
月曜の市には、こうした御守を専門に扱う職人が何人も店を開いて、繁盛しています。「この子はちょっとお腹が弱いから、それを防ぐのを作って」など、オーダーメイドもできます。日本もある種"おまもり大国"ですが、それにもひけをとりません。
じゃらじゃら取り付けられたティラには、赤ちゃんのバーバ(お父さん)やニャー(お母さん)ら、家族の愛情がてんこ盛り。
この子に悪霊がとり憑きませんように!
この子が病気になりませんように!
この子が将来お金に困りませんように!
この子が皆に好かれる立派な人になりますように!エトセトラ。
親ってなんて欲張りさん!その親の愛情はたいへんほほえましいものですが、ちっちゃなからだにこんなにたくさん結び付けられたら、赤ちゃんにとってはむしろ邪魔じゃないのか?とも、ひそかに思ったりします。よかれと思って熱心にやっている親御さんに、「つけすぎじゃないかね?おんぶされる時とかおっぱい飲むときに、邪魔になってないかな」などという呑気な質問は、さすがに口にできません。
なので、親に分からないように日本語で、こっそり赤ちゃん本人に聞いてみました。サミィ君、生後三ヶ月、趣味は睡眠、好物は母乳。大家さんのお孫さんです。
彼のティラの一つには、3cm四方くらいの立派な貝殻が二個もついています。この国に海はありません。(最短直線距離でもジェンネまで約1300km)車などなかった時代には、遠くからはるばる運ばれてくる大きな貝は、貴重な分、ありがたみも大きかったのでせう。ティラにはもってこいです。
『で、実際どうよ?ティラはうっとうしくない?』
サミィ君は、こちらをじぃと見て「うーぅ、だーぁ、ふぁぅ」とか言いながら、手足をばたばた。さらに、赤ちゃんらしからぬおっさんぽいくしゃみを二発。そしてまた、両足をぴんと張って、こちらをじぃと見つめます。
『ええまぁそうですが、これもバーバやニャーたちの愛情ですからね。そこらへんは十分に分かっていますよ、われわれ赤ちゃんは。ご安心ください』
といったところでしょうか。
ああ、赤ちゃんよ、君たちは分かっていたのか。分かってて、受け入れているのか、親の愛情を。
じゃらじゃらティラだらけの小さな赤ちゃんたちは、めそめそ悩む大人の私なんかより、はるかにオトナではあるまいか。Baby understands.
(サミィ君の写真はなかったので、写真は機織職人の娘ニャムイちゃん。
突然のカメラにかなり怪訝な表情ですが、普段は愛想のよい子です。)
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