2009年12月19日土曜日

そろそろ二人目を…

イスラームでは、男性は4人まで奥さんをもてます。国によっては、たとえムスリムがマジョリティでも、法律で一夫多妻を禁じているところもあります(たとえばトルコやチュニジアとか)。なので「イスラームでは」というと語弊がありますが、すくなくともマリ共和国の法律では、4人まで奥さんをもつことは問題ありません。ジェンネでも、複数の奥さんがいる男性はめずらしくありません。かならずしもすべての男性が複数の奥さんをもっているわけではありませんが、わたしが知るかぎり、40歳以上の既婚男性の半分以上には、複数の奥さんがいます。さすがに4人の奥さん(とそれぞれが5人は産む子どもたち)を養えるひとは少数。よくみられるのは、20代で一人目と結婚して、30代後半か40代で二人目(だいたい自分よりひとまわりかそれ以上年下)をめとる、という、奥さん2人のパターンです。

さて突然ですが、ここ数ヶ月、ママドゥさんがそわそわしているの。ママドゥさんは、2007年のわたしのジェンネ滞在以来、調査助手をつとめてくれているお兄さんです。調査助手というと大げさかもしれませんが、長いインタビューをするときにジェンネ語からフランス語に通訳してくれたり、調べたい事柄があるけど誰に話を聞けばよいかまったく見当がつかないときに、「どこどこさんちのあのおじいさんに聞くといい」とアドバイス&わたしを紹介してくれたり。もちろんボランティアではなく、一緒に仕事をするときには、お金を払って働いてもらっています。34歳、本業は泥大工です。

ママドゥさんは、ジェンネの平均からしたらすこし遅い、29歳で結婚しました。ただいま結婚5年目。奥さんのニャムイさんは、飾りっ気のない、とてもさっぱりして明るくやさしい女性です。親同士が決めた結婚だそうですが、マジメすぎるところがあるママドゥさんとさっぱり明るい奥さんは、とてもバランスがとれているように思います。子どもも2歳半の女の子と1歳の男の子にめぐまれ、いやぁ、うらやましい若夫婦じゃないか!

なのになぜ、ママドゥさんはここ最近そわそわしているのか?そう、それは、「そろそろ二人目を…」と思いはじめてしまったからです。子どもの話ではありません。「そろそろ二人目の奥さんをもらいたい」とそわそわしているのです。おしゃべりしていると、なにかと「いやぁ、やっぱり嫁さん二人いたらいいよなぁ…」という話になる。わたしが未婚の美人な娘さんと仲良くしていると、「あ、そういえば、ミクの友だちのあの子さ、婚約者とかいるのかねぇ?」などと、さりげないふりをして―でも傍目には、その娘が気に入っているなっていることがバレバレな感じで―聞いてくる。

う~ん、どういうタイミングで、マリの既婚男性が「そろそろ二人目を」と思うのか?一夫一婦制の日本に育ったひと、しかも女性のわたしには、よくわかりません。日本の男性諸氏、ママドゥさんのそわそわが分かりますかね?ママドゥさんは結婚5年目、働き盛り・男盛りの30代半ば。しかも、一緒の家に住む8歳年の離れたお兄さんが、去年二人目のかわいい奥さんをもらったばかりです。そういう状況を考えると、まぁ、一夫多妻の環境のなかで育ったかれが、そわそわしはじめるのも無理はないのかなぁ…?

ある日、奥さんとママドゥさんとわたしでお茶を飲みながら話しているときにも、ママドゥさんが「いやぁ、そろそろ二人目…」と言い出しました。『また始まった…』と思ったわたしは、「ニャムイ(奥さん)ひとりで十分やん!彼女はかわいいし、よく働くし、よいお母さんだし、あなたより10歳も若いんだよ?」と言うと、ふだん静かに話すママドゥさんが、負けじとまくしたててきます。「いやいや、ニャムイが良いとか悪いっていう問題じゃないんだよ。一人目の奥さんがよくないから二人目をもらう、というわけじゃないんだ。男たるもの、やっぱり、複数奥さんがいないとね!それにニャムイ自身も、ぼくがもう一人奥さんをもらったら助かるはずだよ?家事仕事も減るし。な?ニャムイ、おまえも賛成だよな?」。当の奥さんとわたしにそう言いおえると、ママドゥさんは「ちょっとトイレ」と席を立ちました。

席を立つママドゥさんの後姿に、奥さんのニャムイさんは『やれやれ…』という苦笑い。そしてわたしに、いつものカラッとした笑顔で、「二人目をもらいたいなら、さっさともらえばいいのよ。はいはい、わたしも賛成。賛成ですよ?でもあと10年は無理ね~。あのひと、お金ないもん。誰が砂糖を買うお金もないひとのところに嫁に来るっていうのよ?ふふふっ!」。たしかに、ママドゥさんはとても有能で働き者ですが、泥大工の仕事も調査助手の仕事も、そう安定してはいない。そのうえ人がいいのか、義理を通して金銭的に割の合わない仕事を引き受けてきたりする。このときにも「3人でお茶を入れて飲もう」とママドゥさんが提案しておきながら、かれにはお茶にいれる砂糖を買うお金がなく、結局わたしが買ってきたのでした。たしかに経済的には、かれの「そろそろ二人目を…」の願いがかなうのは、今のところなかなか難しいように思います。

わたしは、ジェンネのみなさんの、神さまへの愛情にあふれた穏やかな信仰心はとても好きです。でも、4人まで奥さんをもてるというのには、どうしても違和感がある。こんなことを言うと毎回、「じゃぁ日本やヨーロッパの男性は、よそに女のひとがいないのか?僕らはそういうことをせず、ちゃんと二人目もめとって家族として一緒に生活してるんだよ?」と、意気揚々と論駁されるのです。国内の新聞も届かないこの町で、どうやってそんな日本情報を仕入れたんだか。うーん、おっしゃるとおり、日本でもヨーロッパでも、よそに女のひとがいる男性はたくさんおるわけでして…。

それにしても、「二人目がほしいよぅ!」と滑稽なほどあからさまにそわそわするママドゥさんと、それにたいして、駄々をこねる子どもを見るような目で、「はいはい、わたしも賛成よ~」と笑顔で言ってのける10歳年下のニャムイさん。――やっぱりすっごくお似合いだと思うし、ニャムイ一人で十分だと思うけどねぇ。

2 件のコメント:

  1. うぬぅ。自分だったらどうしようかとか考えてしまうわ。夫がたくさんいたらどうする・・・とか。子ども産むのは女の人やから、たくさん夫がいても大変よねー。生物学的に誰の子かわからんし。そんときは社会的な父を順に決めればいいのか。ってことは、夫の数、子どもを産む。。。うーん。夫は一人で十分ですね。

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  2. >ぽにょぽにょぽにょ魚の子
    「自分だったらどうしようかとか考えてしまう」って書いてあるけん、「じぶんの旦那さんが二人目の奥さんをもらたっらどうしよう」って話につづくのかと思ったら、「じぶんにたくさん夫がいたら」って方なんやね。さすがwknちゃん!

    マリでもまぁたいていの奥さんは、旦那が二人目の奥さんをもらうことに賛成じゃないように見えるけどね。でもそういうもんだから仕方ないねぇ、って感じかなぁ。奥さん同士の嫉妬がけっこう壮絶なところもあるしねぇ…。「あの人(二人目の奥さん)は、旦那へのごはんのなかに、旦那がわたしを嫌いになる薬を入れている!」とか言っている人もいるし…あぁ疲れそうね。

    夫は一人で十分ですね。おいらはまだ一人もおらんけどね。

    旦那さんによろしくお伝えください。

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