2009年6月8日月曜日

おばあさん、ご冗談を。

少し雨が降りました。まだ本格的な降雨ではないので油断は禁物ですが、雨がまだ降らないことを心配していた住民はひとまずほっと一安心。それにしても、雨が降ってちょっと涼しくなった途端、人びとの表情や態度が、目に見えて緩やかになります。おもしろいくらい、がらっと変わる。雨が降ったら降ったで、舗装もない泥の町はどろどろのぬちゃぬちゃになり、マラリアを媒介する蚊も増えて皆ぶぅぶぅ文句を言うのですが、それでもやはり、雨は喜びをもたらす恵みなんだな、と実感します。

さて、今日はちょっと変な話。

いつも陽気にあいさつしてきてくれる近所のおばあさんがいます。けっこうなお年だと(80は過ぎている)思うのですが、路地ですれ違うと、やぁやぁ、という飄々とした感じで、とことこと寄ってきてくれます。いつもほのかに干し魚のにおいがする(そしてたいてい干し魚の入ったかごを頭に載せて歩いている)、漁民のおばあさんです。

こちらの挨拶は長くて、「おはよう」「元気?」「ご家族はどう?」「旦那は元気?」「仕事の調子は?」「子どもは?」「中庭の人たち(長屋の同居人のこと)は?」
「よく眠れた?」「なんかいいことあった?」などと矢継ぎ早に続きます。まぁ形式化された挨拶なので誰もいちいち正直には答えず、「あ、はい」「好調です」「ぼちぼち」「神様のおかげで」「ええ、とても」など、こちらも矢継ぎ早に、ぱぱぱと答えます。そういうもんなのです。

昨日も、おばあさんと路地ですれ違い、ぱぱぱっと挨拶していました。たまたまそのときにおじさんが通りすがり、わたしを見ながら、げらげら笑います。なにがおかしいのかしら、おばあさんと挨拶してるだけなのに。ちょっとムッとして、「あの、何がおかしいんですか?」とおじさんに聞くと、「娘さん、あなた、ブテが好調なのかい?」。

そのおばあさんは、わたしに会うと毎回、たくさんの質問挨拶に混ざって、「ブテは元気?」と聞いてきます。私はこれも体調か何かを訪ねる何か形式化された挨拶の一部なのだと思っていて、たいして気にせず、いつも「ぼちぼちです」とか「ええ、問題なく」とかなんとか適当に答えていました。昨日もそう聞かれて、「あ、はい、好調っす」などと答えた覚えがあります。

どうやらその「ブテ」に問題があるらしい。まだ笑っているおじさんに、「ブテって何ですか?」と聞くと、おばあさんがふいに私の下腹部あたりをちょろっと触ってきて、「ここ」。え~っ、そこのことなんですか…?分かった途端に発音しづらくなりましたが、ブテはつまり、ジェンネ語で女性器のことだそうです。おばあさんは毎回わたしに、その具合を聞いてきていたのです。

宮本常一の『忘れられた日本人』にも、かつての日本の田舎での、おばあさんたちのあけっぴろげで露骨な性的冗談とか性的比喩の話が集録されていましたが、まさにそんな感じです。おばあさんの特権、女同士の粗野な戯れと言いますか、なんと言いますか――。

それにしても、いつも何も知らず、その質問にすました顔で「とても好調です」とか「おかげさまで」とか答えていた自分が、とても恥ずかしい。ブテの意味が分かって、照れ隠しにおばあさんに「もぅ、何で(そんなこと言うんですか)?」と笑いながら聞くと、おばあさんは何くわぬ顔で、「え、あなた、ブテもってないの?女なのに?」などと聞いてきます。

…おばあさんたら、お戯れ。

2 件のコメント:

  1. そりゃ、おじいさん、大爆笑やで。「この子、しれっと答えてるなぁ」ってなもんでしょうねー。おばあさん、強し。

    返信削除
  2. >wknぽにょ師匠

    おばあさん、わたしがその言葉の意味を理解してないと分かっとるのに、わたしに会うたびにめげずにボケ続けたのもすごいよね。途中で「あなた、ブテの意味分かってるの?」とか聞いてもよさそうなものを。拾われることのないボケを、ずっと投げかけ続けるその根気。そこらへんも、見習いたいものです。

    ぽにょも関東の授業でいろいろカルチャーショックなようですが、根気づよくボケ続けてください。

    みく

    返信削除