2009年6月3日水曜日

お母さんモスク。





お母さんモスク。

からっからの気候です。すべてのものが乾いてる。例年だとすこしずつ雨が降り始める時期なのですが、その気配なく、住民たちは「このまま雨が降らなかったら大変だ…」と心配気味です。

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さて、今日はジェンネのモスケの話をします。

ジェンネのモスクはたいへん有名です。泥でできた世界最大の建築物。ジェンネ語で「ジンガレィ・ベル」(大モスクの意)と呼ばれます。高さ約20m、敷地は縦75m×横75m。現在のものは、13~19世紀に何度か建て直されながら同じ場所にあったモスクを参考に、1907年に再建。メッカの方角(ジェンネではほぼ真東)を向いて建っています。

ジェンネのモスクは、美しい。その佇まいが、とても好き。

建築物を見て、「でっか!」とか「手がかかってますねー」「巧みな伝統の技やな」などと思うことは、よくありますが、「あ、好き…」としみじみ感じたのは、このモスクが初めて。建築物を見ての感想でなく、もはやちょっとした思慕です。

ここからはその思慕と私の空想癖からくる描写ですので、ジェンネのモスクの情報としてでなく、「私にとってのモスク~妄想編~」としてお読みください。

わたしにとってのジェンネのモスクの美は、万人の目を引く美男・美女のそれというより、母性的な美しさ。すこし気が強くてたまに厳しくて、かわいらしいところもあって、でも根底には常におおらかな包容力、しなやかな強さがあるような、そんな母性的なるもののイメージ。お母さんモスク、もうすぐ102歳。ちょっとお年をめしましたが、お元気そうでなによりです。

特に好きな彼女の姿のは、朝5時すぎ、昇ってくる朝日を真正面から浴びて、すくっと澄まして姿勢正しく立っている様。それと、夕とも夜ともつかぬはざま、紫のかすかな陽日を背に、町の人びとが行き交う広場を悠々と見守っている様。

ネットで旅の感想を書き込む英仏語のサイトに「ジェンネのモスクは想像していたより小さく見えてがっかり~」とか、「フォトジェニックなのか、実物はいまいちでした」といった書き込みがたまに見られますが、チッチッチ。

甘いね、違うのだよ。普段のお母さんモスクは、つつましいのだ。素の姿で、すとんとそこに佇んでいるのです。でもひとたび観光客がカメラを向けたなら、ちょっとサービスして、カメラ目線でお澄まししてくれるのです。だからフォトジェニック。そういうわけなのです。

ジェンネの住民のお母さんモスクへの愛着も、とても強い。

でも「すごいっしょ~!?うちのモスク!」という揚々とした自慢がなされるわけではありません。彼らにとってはここはアッラーへの礼拝の場なので、まして擬人化して「お母さん」などと言うはずもなく。当然ですが、このモスクがここにある、ということがジェンネっ子にとっての日常風景なわけで、特にこれみよがしにその愛着が言語化されたりするわけではないのです。

それでもなんだか、『あ~、皆さん大好きなんですね~、お母さまのことが…うんうん』
としみじみ目を細めたくなるような、ちょっと涙が出そうな、そういう素敵な光景がよくみられます。

【写真】


1)ジンガレィ・グングの様子。日本語の「おなか(お腹-お中)」と同じで、ジェンネ語では 腹のことをグング、ものの内部のこともグングと言います。だから「ジンガレィ・グング」はモスクの内部\お腹。さしずめお母さんの胎内です。(現在、原則的に非ムスリムはモスク内立ち入り禁止。この写真は、関係者に許可を得て彼らと一緒に立ち入り・撮影しました。)

2)娘たちは、別にお母さんに関心がないわけではないのです。いちいち甘えなくても、母娘はツーカーの仲だからOK。今晩の献立を考えながら、いそいそとお母さんの前を通過します。女はいろいろ忙しいんす。お母さんもそれを分かってる表情。

3)雨季の前、年に一度の泥の塗り直し作業。住民にとって最大のお祭りです。町の若者が競うように、我先にとお母さんをお化粧直し。女の子は塗る泥が乾かないように、川べりからバケツで水を運んでは、混ぜ混ぜします。

4)町の男性はよくこうして、モスクの壁に腰掛けて夕涼み。リラックスしてぷらーんと投げ出した皆さんの足がかわいい。お母さんは黙って息子たちをひざに乗せてくれます。

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ここ数年来、このモスクをめぐっていろいろな変化が起きています。

外部の援助団体やマリの行政が、世界遺産に登録されて有名になったお母さんモスクを、おもむろに甲斐甲斐しくお世話し始めました。住民たちはモスクがお金をかけて若返るのを喜ぶ一方で、「ぼくたちのモスクなのに…」「ぼくたちの手でずっと守ってきたのに…」と困惑の表情も。

お母さんモスク、あなたはどうお考えですか。建て直しを経たとはいえ800年もずっとここにいるのですから、ご自分をとりまくこうした急速な変化すら、「長く居ればこういうこともあるわよ」とゆったり構えてるの?

あす4日は、年に一度の塗りなおしの日です。

2 件のコメント:

  1. はじめまして。偶然見つけてからというもの、いつもたのしく読んでます♪
    ジェンネのモスク、その母性的な美しさが、佇まいが好き、というのすごくよくわかります~!
    ジェンネには2度行ったのですが、モスクはやわらかく静かに、たしかに、いつもそこに在って、町の人たちのささやかな日々の暮らしを見守っていました。そんなことをかんがえながらモスクを前にぼーーっと座って時間を過ごしていたことが、あの町の砂っぽさが、遠く離れた日本にいるととってもなつかしくて恋しい気持ちです。
    2度目に行ったのはことしの2月の終わりごろから3月の中ごろまでだったので、mk_djenneさんとどこかですれ違ってたかもー?なんて思ったり。
    これからもたのしみにしています。

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  2. >tomoniさま

    いつも読んでくださっているようで、本当にありがとうございます。うれしです。ごく個人的な滞在記で恐縮ですが、楽しんでいただければさいわいです。

    ジェンネのモスク、いいですよね~。もこっ、もこもこもこ!と土から生まれてきたようなあの佇まい。こんかいのエントリ、ちょっと擬人化した表現で暴走しすぎたかな、と思っていたので、共感していただけてほっとしました。

    よろしければ、しがない調査者のしょっぱい日常をこれからものぞいてみてください。

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