2009年5月13日水曜日

Buffalo Soldier 




先日5月11日はボブ・マーリーの命日でした。亡くなったのは1981 年のこの日。享年36歳。若い。

なぜ彼の命日を知っているかというと、ここマリでも彼の人気は根強く、若者も年配の人も、「あ、今日は命日だね」などと話しているからです。「アフリカ」を愛したボブ・マーリー、今でもここで愛されてます。
(マリの発音だと、ボブ・マーレーです。)11日夕方には、マリの国営放送が生前のライブ映像を放送。ジェンネでも、若者たちが夜にあちこちでボブ・マーリー・ナイトを開催。

ボブ・マーリーは、天才だと思います。

前回の調査で、ジェンネのある老人が、植民地時代の話をしてくれました。彼の話題は、第二次世界大戦に及びました。

大戦当時のマリは、フランス植民地支配下。フランスはフランス本国だけでなく、こうした植民地からも、
たくさんの兵士を世界各地の戦地に送りこみました。(フランスだけでなく、日本もこういった横暴をしてきましたが。)ジェンネからも、多くの男性が戦地に送られたといいます。

老人は、白内障気味の白っぽい目でじぃとこちらを見て話します。

「ある日、フランス人から『さぁお前、戦争に行け』と命令がくる。徴集された人の家族は泣き明かしたものだ。戦争にかりだされるということは、もう二度と戻ってこないということ。こんな悲しいことはない。戻ってくるとしたって、一体いつだい?そのあいだ、誰が家族を食わせるんだい? 皆、おいおい泣いたよ…」
  
ある日突然攻撃してきて自分たちを支配しはじめた、見知らぬ「お国」のために、戦争にかりだされる。理不尽きわまりない話。

ボブ・マーレーのBuffalo Soldierも、アフリカからの奴隷交易と奴隷やその子孫がかりだされた戦争を歌っています。"水牛兵士"は、アフリカから連行され、戦争にかりだされ、上の話と同じく理不尽な運命を背負わされた人々のこと。(歌詞は一部抜粋。分かりやすくするため直訳。変な訳でごめんなさい)

*   
Buffalo soldier, dreadlock rasta
There was a buffalo soldier in the heart of America
Stolen from Africa, brought to America
Fighting on arrival, fighting for survival
He was a buffalo soldier in the war for America
              
バッファロー・ソルジャー ドレッドヘアのラスタ
バッファロー・ソルジャーがいた アメリカのど真ん中に
アフリカから盗まれて アメリカに連れてこられて
着くなり戦った 生き延びるため戦った
彼はバッファロー・ソルジャー アメリカのための戦争に参加した

*

こんなにシンプルでさらっと韻を踏んだことばに、何十年、何百年の、アフリカから連れてこられた人たちの
苦悩や歴史を込められるなんて、実に巧み。この歌詞、戦争や奴隷貿易の悲惨さを具体的に語ってはいません。平らな言葉で歌っているけど、その"具体"を実際に経験した人、後に学んだ人、そして何も知らない人にすら、なにかを伝える。しかもそのメロディに重々しさなどひとつもなく、こんなに軽快で、それゆえにどこかカラリと哀しい。

この歌のメッセージはさらに、それを歌うボブ・マーレー自身が創造し、そのなかに生きた"ラスタの物語"によって、増幅されています。物語をもたない人が、musicとしてでなく政治的メッセージしてこの言葉を口にしても、きっと表面的で胡散臭いものになるでしょう。

ドレッドヘアなボブ・マーレー・ファンに「なにを今さら」と怒られそうですが、いやぁ、つくづく、彼は天才だな、と思います。音楽ってかっこいいよな、と思います。と同時に、果たして私のやっている人類学・民族誌は、彼のように何かを伝えることができるのかな、と考えたりします。

彼が、平易で普遍的な言葉とカッコいいリズムのなかに、たくさんの人々の個別的な意志や苦悩を込めたのとは逆に、民族誌は、個別的な語りや描写のなかに、普遍が込められているべきだと思います。そして研究者の内だけでなく、そこに描かれた、またそれに触れた人々のあいだでの、対話や議論の踏み台、仲介役になれれば理想だと思います。

それが、どこにいても何となくこなれた感じで馴染めて、と同時に、どこにいても何となく、でも強烈な居心地の悪さと違和感があって、だから、それらの境界にいてこそなんぼの人類学を、人生逃げ腰気味に選んだわたしが役立てる、唯一のことなのかな、と思います。

でも、じゃぁ、どうすればいいのかしらん。(嗚呼、「まずはさっさといい論文を書け」という先生方の声が聞こえるよ。)

あの老人が「博士号とか論文とかいう話はよく分からんが、あんたの勉強のためになるなら協力するよ」と言って聞かせてくれた、ジェンネの或るbuffalo soldierの物語を、わたしは、これから書く民族誌にどう活かせるのかしらん。

そんなことを考えた、ボブ・マーレーの命日でした。うまくまとまってない、混沌とした文章でごめんなさいよ。

Buffalo Soldier

2 件のコメント:

  1. 福岡の端んヤツ2013年5月2日 23:43

    はじめまして、
    「Buffalo Soldier 歌詞」でサーフして拝見しました。

    彼の生き様を語る文章は数多く拝見しますが、あなたの文章には彼を斜め下から仰ぎ、賛同や理解を求め、そして尊敬する心が感じられました。

    平和ボケした日本で何も考えずにボーッと焼酎を煽りながら歌詞の意味を探してた自分が浅ましく感じ、コメントを残させていただきました。

    不躾な文章で失礼いたしました・・

    返信削除
  2. 福岡の端んヤツさん、コメントありがとうございました。わたしも福岡の端の出身なので、お名前に親近感があります。

    ボブ・マーレーのことにあまり詳しくない私が知ったかぶって書いてしまったので、熱烈なファンの方は苦笑いかも・・と思っていたので、お褒めいただいてとてもうれしいです。

    青臭いことを言いますが、本当に、よい音楽というのは時代も国境も超えて説得力をもつものだなぁと思います。

    返信削除