2009年5月16日土曜日

ウォクラとの遭遇。



わたし先日、とうとう見てしまいました、ウォクラを。

ジェンネでは、"精霊"や"悪霊"の存在が強く信じられています。イスラーム世界の悪しき精霊「ジン」もそのひとつ。ジンにまつわる話は、今もジェンネのあちこちで聞かれます。(こうした精霊譚はとても面白いのですが、調査で得られた企業秘密なので、今は内緒。いつか論文に書くと思います)

そしてジェンネでは、ジンとは別に、「ウォクラ」とか「ワクラ」と呼ばれる存在についても、よく語られます。

ジェンネの人々にとってウォクラやジンは、人がそこに存在するように、木がそこに生えているように、"存在する"ものです。「そういう精霊の存在を信じている/信じていない」といった表現では、不正確なように思います。だって、ここの人にとっては、普通に"いる"のですから。

ジェンネの皆さんによると――

人や動物に化けないかぎり人間の目には見えないジンと違って、ウォクラは常に人の形をしている。では人間とどこが違うのか?小さい。3歳とか5歳とか、それくらいの子供の背丈。でも、子供ではない。しわがあったりひげが生えていたりして、普通に会話もできる、いわゆる「こびと」、とのこと。

先日も、ウォクラについてあるおじさんに話を聞いたところでした。

「あの、ウォクラって、今もいるんですかね?」「えぇっ!? お前、まだ見たことないのか? いるよ、もちろん。夜に川辺のほうをみやると、ちらほらと松明の灯が見えるだろ?あっちの方向に民家はない。夜中に町の外を歩き回る人間もいない。あれはウォクラが灯している火だ。あそこに彼らは棲んでいる」

ウォクラは、人間を襲って狂人・廃人にしたり、死に至らしめると言われるジンほど、悪いことはしない、と言います。けれど、夜に町をうろついては、人に喧嘩をしかけてきたり、野生動物や家畜を殺したり、人を勝手にワープさせておちょくったりしているそうです。けっこうワルです。

昔に比べてその数は減ってきたとも言われますが、ウォクラやジンの存在は、"おじいさんおばあさんのお話"ではありません。私と同年代の若い人も、こう言います。

「真夜中に、子供が一人で路地をうろついているのが窓から見えた。『おいおいどこの親だ?こんな夜中に子供を出歩かせてるのは』と言いながら灯りを当てると…それは子供ではなくウォクラだったんだよ!」
 
彼らが嘘をついているとか、外国人の私を皆してからかってるとか、そういうふうに疑っていたわけではありません。それでもやはり、誰もが「いるよぉ、うじゃうじゃいる!」と断言するわりに、じゃぁどんな顔をしている?服は着ている?何語で話す?と尋ねると、「…それは知らない。でもいる。だって見たもん」とか
「見えなくたって、いるのは分かる。だっているんだから」などと言われると、精霊が「いる」「存在する」ってどういうことなんだろう?と思ったり。

さて、そんな興味深いウォクラのお話を聞いたその夜、いつものように屋上にござを敷いて眠りました。

ひんやりした風がそよそよ吹いて、心地よい朧月夜。でも、いろいろ考え事をしていたらなかなか寝付けない。枕元の腕時計を見やると、あぁ、もう2時だぁ、明日も早いのに…。

しばらくして、ようやくうつらうつらし始めたとき、カサ、カサカサっという音が。ここにはネズミがけっこういます。はじめはその物音だと思いました。なので、いつものように追い払おうと、メガネをかけ、手元の小石を投げつけようとしたら…

――なんかいる! 子供だ。

正確に言うと、子供大のシルエット。私の正面2mくらいのところに、不自然にくっきりとした黒い影が見えました。うわっ!とびっくりして、全身がビクンとしました。

でもそれでも私は、まだすこし寝ぼけています。その背丈から、とっさに同じ長屋の4歳児アナちゃんだと思いました。だから、「アナ、ノー ダン マ ネ?」(アナ、ここで何してんの?)と、その黒い影に聞きました。

でも、返答はなし。

その華奢で小柄なシルエットは、微動だにせず、黙ってじぃと私を見つめています。表情は見えないけど、なぜだかこちらを凝視していることは、はっきり分かるのです。

あれ?アナちゃんじゃない…。気味が悪くて、心臓がドクドクドクドクしてきました。これ、なんだ? やだなぁ、なんだこれ…。

するとそのシルエットはサッと消えて、今度はなぜか、日本のある知り合いの姿が見えました。げげっ、生き霊!でもそれも、私のほうをねっとりと数秒間見やって、すっと消えました。その人が聞きなれた独特の間で歩く、カッカッカという足音だけが、耳に残りました。

ほんとうに不気味で恐かった。久しぶりに、心臓ばっくばく。その夜は、まったく眠れませんでした。


ウォクラの話を聞いた日だったから、夢でもみたのだと思います。――と言って片付けるには、あまりにリアルでした。あの子供の背丈の漆黒のシルエットも、そこに立っていた知り合いの姿も。少なくとも、夢ではなかったように思います。

翌朝、念のためアナちゃんに聞いてみました。「ねぇねぇアナ、昨日の夜、屋上に来た?」「ううん、いってないよ~。…なんでぇ?」

うわー…やっぱりウォクラだった可能性大だな…。

すいません、ウォクラの皆さん。「存在する」んですね、あなたたち。もう分かったから、わたしんとこには来ないでください。まじで、怖いっす。

写真:ジンの住処といわれるある場所からジェンネの町を望む。町から2kmほどで、増水期にはカヌーでしか行けません。増水期にはこうして緑の水辺にお花が咲いていたりして、なかなか素敵なところです。

7 件のコメント:

  1. みちゃったかぁ!ウォクラはいいとして、生霊のほうが怖いんだけど。
    ウォクラはガンを飛ばしにきたんやね。「居るって言ってんだろ、この野郎。疑いやがって」って。

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  2. >wknぽにょさん

    見てもぅた。
    そこらへんのチンピラより年季のはいった
    ガンの飛ばし方やったよ。
    さすがっす、ウォクラさん。(もはや「さん」付け)

    生霊は、元気かなぁと思っていた人だったので、
    まぁ元気そうで安心しました。生霊やけど。

    みく

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  3. はじめてコメントします。
    陰ながらいつも楽しく読ませてもらっております。

    とうとう見たのですね。
    精霊が普通にいる感じ、本当に不思議です。
    人を勝手にワープさせるというのは面白いですね。会話もできるみたいですし、手なずけると、どこでもドア的な感じで、利用価値がありそうです。

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  4. すごいすごい!見えるようになったんだねえ・・・
    いつかどどんと面白い論文にしてください。

    あたしはこの間、「神が自分に乗り移りそうになったから怖くてお経を唱えようとしたけど、金縛りみたいにうまく口が動かない」という夢をみました。そのなかで、「でも憑依したら、もっと調査は上手くいくかも」とか、「でも憑依しちゃったら私は研究のことも忘れちゃうんじゃないか」とか、心配してた。起きたらなんともなくて、ほっとしたよ。

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  5. >bunkoちゃん
    昨夜はウォクラ・どこでもドア先輩じゃなくて(もはや"先輩"づけ)、探偵ナイトスクープの夢をみました。こっちであんまり日本の夢ってみらんのやけど、久しぶりに見たそれが「探偵~」って。
    ウォクラとかジンのこういう話って、bunkoちゃんの研究とも重なるやろうから、帰国したらお話聞かせてください。

    >ryokoちゃん
    おぉ、なんかけっこうヘヴィーな夢みとるね。私は小さい頃から金縛りとか変なの見たりとかしょっちゅうやけど、こんな感じでライトに捉えて遊んでいるので、いつかばちがあたるような気がするー。

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  6. 魑魅魍魎

     いるとこには、いるもんやね。俺も各地でいろいろと、精霊やら魑魅魍魎が共存する地域を旅してきたけど・・・、まだ見たことはない。

     信子さんは「本物だと思うの!」と言っています。
     俺もジェンネなら本物だと思います。


     俺もこの夏はね、ネイティブアメリカンの集落巡りするので、どこかで精霊と出会うことがあるかもね。楽しみ楽しみ。


     暑かろうけど、気をつけて。

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  7. >kokoroくん

    コメントありがと。

    「本物だと思うの!」と言いながらお目目を
    キラキラさせる信子さんの姿が、容易に想像できます。

    アメリカの精霊によろしくお伝えください。
    って、ジェンネの精霊が言いよった。多分。
    よろしくお伝えください。

    暑いけどがんばります。
    こころくんも仕事と旅再開の準備がんばっつ。

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