2009年5月3日日曜日

スマヤのほうが…。豚インフル、マリの場合。

世界は豚で大騒ぎのようですが、ジェンネではほんとんどの人が、豚インフルエンザのことを知りません。

お昼のニュースで、豚インフルエンザを伝えるニュースが流れました。これがマリのテレビで私が最初に見た、豚インフル関連のニュースです。でも扱い方は完全に「外国で大変」というもの。しかも1分足らず。
皆さん気をつけましょうね、というようなコメントもなしです。

それを近所の皆さんと見ていました。子供も大人もマスクをしている電車内の映像や、実験室みたいなところでワクチンを扱っている白衣の人の映像を見て、フランス語を解さない人たちも、なにやら物々しい雰囲気を感じたようです。その場にいた、学校の先生をしているあるお兄さんに、説明を求めています。「どうしたのさ?この人たち」

お兄さんはかみくだいてジェンネ語で説明します。やおら近所のお兄さんから「教師」の口調に変わりました。

「白人の国でね、豚の風邪が広まっていて、大変なんだ。死んでしまう病気なので、ああやって布をあてて、
 病気が入ってこないようにしているんだね」

それを聞いた人々は口々に、「あぁ、あの人たちは豚を食べるからねぇ」「そうねぇ、食べなきゃいいのにねぇ」。マリはムスリム90%の国。豚肉を食べません。いやいや…、とお兄さんが得意げに付け加えます。

「豚を食べたらうつるだけじゃなくて、人から人にうつるから、大変だと言っている。スマヤ(マラリア)みたいなもんだ。蚊から私たちにうつるだろう?そして、人から人に移るだろう?」

皆、ふぅ~ん、あ~、と頷いて納得しています。若先生、お上手。世界のニュースを、人々にとって身近なもので例えて説明します。そのうち一人の奥さんが質問します。「そういうことねぇ…で、それで何人亡くなったって?」 そこでお兄さんが、ちょっと申し訳なさそうに答えます。

「…数人だって。今のところ」

すると、おとなしい生徒然としていた奥さん方が、一気にざわめき始めました。本当に、スイッチが入ったみたいに。

「何人かですって!」「それでわざわざテレビで流れるのぉ?」「ジェンネで、スマヤ(マラリア)で毎年何人の子供が死ぬと思ってるのよ!?」「まったく、チュバブ(白人)は…」「シダ(エイズ)だってそうよ?
白人が来てずいぶんお金かけてキャンペーンしてるけど、あんた、 まわりでシダで死んだ人知ってる?ここにはいないじゃないの!」「そうよ、だったらスマヤを防ぐ蚊帳をただで配ったらいいのに!」

などなど。喧々諤々です。

正確に言えば豚インフルエンザは大流行の危険が高いから防いでいる、ということなのですが、彼女たちにとっては、今テレビを見ながらおっぱいをあげているこの子たちをマラリアで失う危険のほうが、よっぽどヴィヴィッド。しかもその確率は、けっこう高いのです。ジェンネで限られた人間関係しかない私のまわりでも、お年寄りを除いて、ここ2年ですでに5人(うち赤ちゃん3人、2人は20代と30代)の知り合いがマラリアで亡くなっています。

豚インフルエンザがたいしたことない、と言いたいのではありません。死者の数だけで病気の深刻さをはかっているのでもありません。このニュースを説明されて議論を始めた彼女たちが得た情報は、もちろん、完全なものではないし、誤解もあります。(確か、豚フルでの死者は100人以上です。)世界遺産のジェンネには世界中を旅しつくしたような外国人観光客がたくさんやってくるので、ここにいたって、油断は禁物といえば
そうなのかもしれません。

でも、ここマリの田舎ジェンネで豚インフルエンザのニュースを見ていると、「世界」との強烈な温度差を感じます。その温度差は、なんだか色々なものが"行過ぎて"しまった、過剰になってしまった、その結果逆に脆弱になってしまった、そんな「世界」を、すこし哀しく、滑稽にすら見せます。

激しい議論を続けている奥さんたちの大声のなか、その大声で目が覚めて泣きだした赤ちゃんを、おぉよしよしとあやしながら、ひとりでそんなことを考えていました。

ここでの豚インフルエンザは、そういう感じです。









 

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