2009年5月23日土曜日

C'est un cadeau empoisonné.

木曜の夜はけっこう高い熱が出て、家でうんうん唸っていました。すると、9人ものひとが訪ねてきました。まぁ私って人気者!と思いきや、それはお見舞いでなく、皆わたしに同じ質問をしにきたのでした。ある物を手に、「これ、なに?」という質問です。

皆が手に持っていたのは、小さなプラスチック製の容器。中には、どぎつい蛍光色の物体が。図工の授業で使った土色や白っぽい色のそれではなく、トイザラスで売ってるような(トイザラス行ったことないけど)ケミカルな感じの粘土でした。

皆さんの説明によると、私のとこにやって来た経緯はこう。

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きょう小学校で、チュバブ(白人)からのプレゼントだと言って、箱が配られた。低学年の生徒全員に一人一箱。子供が持ち帰ってきたので開けてみると、なかにはペンや絵本、小さな布などが入っていた。そのなかに、この謎の物体も入っていた。容器に何か書いてあるが、私は読めない(読めても英語なので分からない)。

家族や近所の人たちで「これはなんだろう」と考えたが、分からない。チューイングガムだとかお菓子だとか、布を染める染料じゃないかとか、皆いろいろ言う。

結局、「チュバブからのプレゼントなので、チュバブのミクならきっと知ってるだろう」ということになって、あなたのとこに聞きに来た。具合が悪いところごめんごめん。でもこれ、なぁに?
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あ、食べちゃだめ食べちゃだめ。

えっと、これは、チュバブの国の粘土です。あちらではこうして粘土に色をつけたりします。ジェンネの水辺の粘土と同じように、こねこねして好きな形にして遊んでください。くれぐれも、ガムではないんで食べちゃだめです。――と説明しました。

ひとまず皆さん、納得して帰っていかれました。「ほらやっぱり!息子はお菓子じゃないかって言い張ってたけど、私は最初から、チュバブの粘土じゃないかってピンときてたのよ!」と、勝ち誇った感じで帰っていくお母さんも。

箱ごと持ってきた人がいたので、見せてもらいました。箱は緑と赤のクリスマス・カラー。大人の靴を入れる箱くらいの大きさ。中に入っていたフランス語の絵本は『何より尊く偉大なお恵み』という仰々しいタイトル。カラフルな漫画で、聖書について説明しています。漫画の中の登場人物はすべて黒人として描かれているので、どうやらフランス語圏アフリカの子供向けに描かれたようです。本の作製フランス、印刷ドイツ、とあります。

そして箱には「2008年メリー・クリスマス☆」と書いてある。
…去年じゃん。

なんとなく事情がつかめました。

おそらく、ヨーロッパのキリスト教系の団体が、"恵まれない子供"のためのクリスマス・プレゼントとして、12月に配る予定だった。でもマリ側の責任者が手配をさぼったために、こんな微妙な時期に配られた。
もしくは、他所で配られた余り物が、なんらかのNGOやアソシエーションを通じて、今ごろになってマリのジェンネに回ってきた。

マリの事務仕事は、ひとつの用件にたくさんの人がちょこっとずつ携わって、そのわりに結局、最終判断はボスのご機嫌ひとつだから、とても遅い。(私はこれをひそかに、too much work/responsibility
sharing と呼ぶ)また、よく分からない余り物が"贈り物"とか"援助物資"として配られることも、マリではよくあることです。今回も、このどっちかだと私はふんでいる。

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それにしてもこのプレゼント、本当にここの子供を思うなら、要らない。与える側の自己満足でないの?と嫌味を言いたくなります。受け取る学校側の「もらえるもんはもらっとけ」根性も、どうかと思う。事前に精査して、要らないものは要らないって言えばいいのに。プレゼントを配布する時、この町選出の州議員――この間の選挙で見事に落選したけど――があいさつしたというから、そこらへんがかんでいて、町の教育委員会も、思考停止の言いなりだったのでしょう。

イスラーム学術都市の町にキリスト教のクリスマス・プレゼントだから不要だ、というわけではありません。
(マリのイスラームは、そこらへんはとてもおおらかで気持ちいいです。)そうでなくて、このプレゼントが明らかに役に立たないから、ここにはもっと必要なものがあるから、呆れちゃう。

マリの公教育は原則無料です。以前は基礎教育では文房具も必要最低限分無料で支給されていたそうですが、現在のジェンネでは、文具については生徒自身が用意しなくてはいけません。ジェンネには、ボールペン一本、ノート一冊買うお金を捻出するのもしんどい家族がたくさんいます。

今回贈られた箱は、重いし、だいぶかさばる。ジェンネの低学年全員分なら、千個以上送ってきたことになります。フランスから送られてきたのか首都バマコからなのかは知らないけれど、いずれにしてもこの送料と関わった人件費で、安い鉛筆が何千本買えるか。

――でもこれは私の考えすぎなのかしら…子供も親もこのプレゼントを結構喜んでるのかしら、とも一瞬思いましたが、やはり"要らないもの"だったことが、即座に判明。

翌日のプレゼントの行く末は、同情したくなるくらい無残でした。それぞれの事情を皆さんに聞いてみると、以下の通り。

絵本→そこらへんで砂まみれ
:書いてあるフランス語のレベルが、こちらの低学年児童には高すぎた。(フランス語ネイティブの子供のレベルじゃないと無理だと思う)なんの本かすら分からず、子供がそこらへんにぽいと捨てた。お母さんが拾って、薪に火をつけるときの紙に使っていました。

カラーペン→そこらへんで砂まみれ
:こちらは空気がとても乾燥しているので、インクが乾いていた。新品なのにすでに掠れている。だから子供、これもぽい。赤ちゃんが拾って、よだれまみれにして遊んでいました。
 
タオル→そこらへんで砂まみれ
:15cm四方くらいのミニタオル。ジェンネの人にハンカチで手を拭く習慣はなく(そんなことしなくてもすぐ乾く)、しかもここではタオルといえば男性が使うバスタオル。そのため子供は、この小さなふかふかした布が、携帯できるタオルだとは認識しなかった。子供、これもそこらへんにぽい。羊さんが拾って、食べられるのかしら?とはむはむしていました。

粘土→そこらへんで砂まみれ
:赤ちゃんの握りこぶしくらいの、つつましい大きさの粘土。彼らが遊びなれている自然の粘土からした少量だし、水を足してふにゃふにゃ度を調節することもできない。うまく成形できず、子供、すぐに飽きてぽい。
にわとりさんが拾って、食べられるのかしら?とツンツンしていまいた。

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つくづく、援助や支援て何なんだ、とため息まじりに思います。こんな"イタい"ケース、マリではたくさん見ます。(そしてたいていが、規模的にもっとアイタタタ。)与える側は与えることに、もらう側はもらうことに、どちらも甘えていると思う。皆が莫大な手間とお金をかけて、真顔で茶番を演じているとしか思えません。おそらく数ヶ月かけて準備されたものが、贈った翌日にゴミて…。

何が必要とされてるのか、どうすればいいのか、それをリサーチ・議論したうえで失敗したのなら、まだまし。でも、こんな思考停止のプレゼントなら、要らない。こんなパフォーマンスの援助なら、やめちまえぃ。

焼却炉のないジェンネの町に、数千片の土に還らないごみが増えただけでした。

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それにしても、よりによって粘土て…ジェンネのまわりは、粘土だらけなのに。というか、粘土しかないくらいなのに。あちこちに無残に打ち棄てられたサイケな蛍光色が、灰褐色の泥の町には、毒々しすぎるぜ。
                       

4 件のコメント:

  1. 発熱、大丈夫?熱なのに余計熱が出そうな出来事が起こって、大変だね。たまにはゆっくり休んでください。

    援助で思い出したけど、去年アメリカにいたとき、クリスマス前に「貧しい国に家畜を送ろう」という内容のおしゃれなチラシが配られていて驚いたことがあります。値段に応じて、鶏一匹から、豚、ヤギ、牛、それぞれ何頭ずつかをセットにしたヴァリュー・パックみたいなの、などなどプレゼントを選べる仕組み。プレゼントを贈った人には可愛い羊のぬいぐるみが貰えたような。

    これとかは、いろいろリサーチ・議論したうえで(地元でどの家畜が必要とされているのか、送った家畜はどうなったのか、などなど)行なわれているとのことだったけど、生き物だけに、食べささなきゃならないし、そのへんにぽいっと捨てることもできないし、問題も大きそうだなーと思いました。というか、なんか大胆なことするなーと。

    クリスマスには何かいいことしたいっていうチュバブの方々の「善意」みたいなものも興味深いけど、それがなんとかうまく回るといいんだけどねぇ。

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  2. 学校に贈るんやったら、ほかにも必要なものはなんでもあるやろうになー。

    あんまり考えすぎたらまた熱が上がるで。ちょっと休みな、チェバブよ。


    チェバブより

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  3. >tamakoちゃん

    アメリカの「家畜を贈ろう」チラシ、「家畜」と「贈る」って言葉の取り合わせがなかなか新しいねー。斬新な違和感を与えてくれます。

    熱は大丈夫。ご心配ありがとー。マリに来るとなぜか、1,2ヶ月に一回くらい、何の前触れもなく派手に熱がでるんよ。そして一晩で治まる。まぁ、お祭りみたいなもんかしら。わっしょい熱祭り。

    先日tamakoちゃんの旦那によく似た観光客をジェンネで見ました。でもドレッドヘアで、がんばれば「交換」と読めなくもない漢字らしきタトゥー。そして人が入ってる着ぐるみかと思うくらいでっかい犬連れでした。大胆なイメチェンを果たしたリアル・ニ君でないことを切に願います。

    >wknぽにょ師匠

    考えすぎたけん熱が出たんかなー。調査は別に毎日もりもりってわけではないし、けっこうごろごろできる時間もあるんやけどね、ここ一ヶ月、マリでも日本でもいろいろありすぎたざんす。たまにはぼぅっとぽにょ(本家のほう)のことでも思って、ふわふわすることにするよ。

    昨日、カメルーンに出稼ぎに行っとった人が帰ってきて判明したんやけど、例のブラジリアン・ドラマの放送はマリだけじゃなかった!フランス語圏西アフリカの全域で大好評放映中。西アフリカのテレビ局ネットワークみたいなのが、まとまって放送権?を買っているそうな。

    そのドラマでは、お金持ちの家(丘の上プールつき、召使わんさか、毎食後こぢゃれたデザート、女子みな美人)と貧乏な家(じゃり道とトタン屋根、奥さん方は常にぶかぶかワンピースにくたびれたエプロン着用、ご飯は毎食イモかマカロニっぽい何か、女子ちょっといまいち)のコントラストが、コントか!って突っ込みたくなるくらいはっきりしています。

    みく

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  4. すごいな、ブラジルドラマ。以前ブラジル人が「ブラジルのドラマは全世界で放送されてるぜ!」って威張ってたから、「どうせ中南米の範囲やろ」というと、「ま、まぁ、そうだけど」と、うなだれた。しかし、アフリカもちゃんと含んでいたとは。あなどれん。

    お金持ちと貧乏人のコントラストは、現実ブラジル社会でもコントか!と突っ込みたくなるくらいはっきりしています。

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