2009年5月21日木曜日

声に出して読みたいマリのことば。



数年前に、『声に出して読みたい日本語』というプチ・ナショナリズムとも形容される本がばか売れしましたが、それとは関係ありません。(余談:あれが一種の国語ナショナリズムかどうかの前に、あの本の著者・
斎藤孝の、絶対腹に一物ありそうな笑顔がすごく苦手なのは私だけか。)

きょうは、声に出して読みたいマリの言葉講座です。

ひとりの時は、よくこうして言葉についてつれづれなるままに思いをめぐらせ、元気をだします。…ってこう書くと暗い人みたいですが、けっこう愉しいよ。

さて、

こんな適当な断言をすると言語学者に怒られそうですが、マリの言葉には、繰り返すものが多いです。日本語にも多いと思いますが、同じくらい頻繁に耳にします。そうした言葉には、なんともかわいい響きが多いので、紹介します。あえてひらがなで書いてみたり。口にすると、どこか疲れが軽くなってほっとするのは、なぜでせう。

さぁみなさんも、声にだして読んでみよう。

***
〇 ふぉろふぉろ(バンバラ語)

昔、のこと。

「むかぁしむかし…」という昔話のはじまりは、「ふぉろふぉろ…」。この言葉が老人から発せられた途端に、ふぅっと物語の中に引き込まれます。ちなみにジェンネ語だと、昔話のはじまりは「ビサンテ…(
(昔…)」。繰り返しませんが、響きが硬質で、これはこれで好きです。

〇 どにどに(バンバラ語)/ もーそもーそ(ジェンネ語)

ちょっとずつ、ゆっくり、ぼちぼちの意味。

雑にガツガツ作業している若手の泥大工に、60歳くらいの棟梁が怒鳴ります。「だん・もーそもーそ!」(ゆっくりやれ!)。「もーそもーそ」という響きがあまりにやわらかくて、私には、親方が怒っているように聞こえません。

〇ぽとぽと(ジェンネ語)

地面がぬかるんでいる状態をさします。

日本語の「どろどろ」的な言葉です。たしかに、粒子が細かい粘土質の ジェンネの土は、水をたくさん含むと「ぽとぽと」になります。じょうずだわ 言い得て妙の オノマトペ。

〇むぬむぬ(バンバラ語)

(軸を中心にして)回る、の意味。

日本語の「くるくる」とほぼ一緒。むぬむぬ。いつもちょっと、言いにくい。しかも、いつも「むぬむぬ」だったか「ぬむぬむ」だったか分からなくなる。今もつい、辞書で確認しました。「む」が先っす。

〇とんとん(ジェンネ語)

加える、足す、増やす、の意味。

先日、顔見知りのおばちゃんの屋台でサツマイモのフライ(うまい!)を買ったら、「とんとんしといたから」と、コケティッシュなウインク付で言われました。とんとんの応用編です。おまけしといたわよ、ってことね。5本分25CF(25CFA=5円)買ったけど、8本入ってました。こっちの女性は、細かいお金に偏執的なくらいうるさいですが、そのわりに、親しくなるとやたら気前がいい。「とんとん」されたからには、常連にならなきゃです。彼女のあきない術に、まんまとはまりました。

〇そごそご(バンバラ語)、ことこと(ジェンネ語)

咳のことです。

日本語のコンコン、げほげほってな感じでしょうか。咳はバンバラ語でそごそご、飴はフランス語でボンボンなので、ミント味のすーすーするのど飴を、「そごそごぼんぼん」と呼びます。すごくいかついお兄さんが、「そごそごぼんぼん、5個くれ」とか言ってお店で飴ちゃんを買っていたりします。かわいい。

〇 ぽぉぽぉ(ジェンネ語)

睡蓮のこと。

増水期になると、町をとりまく水のなかに咲きます。この町は、木花の少ない荒野の乾燥地帯に、ぽつんと佇んでいます。長く厳しい乾季。暴力的な風と激しいスコールの雨季。そのあとに一気に、たった数日間で、黄土に緑の沼地がわーっと広がります。ぽぉぽぉも、美しく咲きはじめます。
 
長い時間ぐっと耐えて、ふわりと咲く。その可憐さとたくましさに、おおげさでなく、ほんとに涙がでます。
ジェンネに初めて来てこれを見たとき、ぽぉぽぉみたいになりたいなぁ、調査がんばろぅ、と思いました。 今も、目に焼きついたあの風景は、けっこう励みになってます。(今年のぽぉぽぉの季節は、まだ数ヶ月先です。)

***

どうですかね、マリの繰り返しことば。

声に出して読むと、嫌な上司のがなり声や、つらい恋の痛手、満員電車の息苦しさも、ちょっと遠ざかりましたかしらん。

写真:ふぉろふぉろ語りが得意な翁、コシナンタオさん。80すぎた今も、毎日7km離れた畑まで歩いて行って、一日中耕しています。小柄な体に似合わない大きくて分厚い手足に、彼の働き者っぷりがあらわれていて、尊敬します。

2 件のコメント:

  1. うん、ほんとにかわいい。そして、全般的にふわりとしてるね。同じく繰り返しが耳についたインドネシア語は、もっとポコポコしてたなあ。(こっちは複数形が繰り返しなんだけど。これまた可愛いよ。)

    ひとつ教えてあげる。声に出して読みたい秋田弁。
    昔話のシメのことばです。「とんぴんぱらりこぷぅ」

    方言分布図みても、日本でただ一箇所なんだよ。
    力ぬけるでしょ(笑)

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  2. >ryokoちゃん
    やろー?特に恐そうなおばちゃんとかが言うと、そのギャップにグッとくる。ひとりで、にやっとしてしまう。

    響き言葉が「かわいい」とか感じるのは、私たちくらいなんかね。マリの人に「ぽぅぽぅって言葉、いいねー」って言ってみたら、案の定きょとんとされて、「ん?あぁね~ぇ…え?」っていう困惑のリアクションやった。

    とんぴらぱらりこぷぅ。

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