2010年1月5日火曜日

なにで帰るの?――空飛ぶカヌーで帰るのよ。

遅ればせながら、あけましておめでとうございます。みなさんとって、すてきな一年でありますように。

――といっても、こちらジェンネのイスラーム暦では一か月ほど前にすでに新年にはいっていたので、新年ムードはまったくただよっていません。いつもと変わらぬ日常です。

そろそろ、日本への帰国の日程を決めなくてはいけない時期になりました。マリから日本へ帰るにはフランス経由。観光大国フランスと日本のあいだの便はけっこう早く埋まってしまうので、そろそろ飛行機の予約をしておいたほうが賢明です。

晩ごはんの時間、大家さんに「そろそろ帰る日程を決めなきゃいけないんですよねぇ」と話していると、そばにいた女の子(6歳と7歳)が聞いてきます。「えっ、ミク、おくにに帰っちゃうの?」「すぐじゃないけどね。くにに学校と家族があるから、あとちょっとで帰るよ」「なにで帰るの?バスで?」「飛行機に乗って帰るんだよ。バスでマリから日本までかぁ…。それはちょっと無理やねぇ(笑)」

マリと日本がどれくらい離れているか想像もつかない(もちろん日本がどこにあるかも知らない)ジェンネの子どもたち。ジェンネからは、首都バマコや北部の町、そして隣国ギニアまで乗り継げるバスも出ています。ジェンネの子たちが、じぶんのあらん限りの想像力を駆使して、「遠いところへの交通手段といえば、やっぱりバス!ミクもきっと日本までバスで帰るんだろう」と思ったところが、とってもかわいい。まわりにいた大人も、そのかわいさに大笑い。

大笑いした大人も、乗り換えもふくめると飛行機で丸1日以上、というマリと日本の距離を、いまいち把握はしていません。まぁわたしも、日本から北米や南米までどれくらいかかるか知らないので、似たようなものですが。

以前ジェンネのおじさんに、マリと日本がどれくらい離れているのかと聞かれました。「飛行機で丸1日以上かかるくらいの距離です」と答えるも、「うーん、わたしは飛行機とやらに乗ったことがないから、よく分からないなぁ…」とのお返事。それもそうだなぁ。そして、「じゃぁ、おまえのくには、マリからメッカよりも遠いのか?」と続きました。

ジェンネのひとは、商売や牛の放牧、親せきを訪ねるため、同じ西アフリカの地続きの外国には、頻繁に出かけます。そういった意味では、日本人よりはるかによく外国に行っていると思いますが、飛行機に乗るほどの遠い外国にでかけたことのある人は、ごくごく一部。そんなかれらにとって、「飛行機で行く遠い外国」といわれてすぐに思いうかぶのが、巡礼のためのメッカ(サウジアラビア)なのだと思います。なるほど、それを基準に答えれば、マリと日本がかなり離れている、ということをつかんでもらえるのね。

「メッカより遠いです。マリからメッカまでの距離の4倍くらいあるんじゃないかな?4メッカくらいです」と答えると、「4メッカかぁ…!そりゃ、地球の裏側だね」と驚いていました。メッカまでの〇倍。便利な単位なので、その後、たまに使うようになりました。さすがに、4メッカ、しかも海を渡る道程を、バスでは行き来できんなぁ。

ちなみに、ジェンネのことばで、飛行機のことは「フィーリ・ヒイ」といいます。フィーリは飛ぶ、ヒイはカヌーのこと。つまり、飛行機は「空飛ぶカヌー」。増水期には四方を完全に水に囲まれるジェンネに住むひとにとって、カヌーはとても身近な交通手段です。フランスの植民地支配後、はじめて飛行機を見たジェンネのひとが、その細長いかたちから、飛行機を「空飛ぶカヌー」と名付けたのは、納得がいきます。マリでもっともよく話されるバンバラ語では、飛行機は「モビリ・コノ」といいます。モビリはmobile、つまり自動車。コノは鳥の意味です。飛行機=鳥自動車。なるほどね。

こんなすてきな表現があるのですが、最近のジェンネの子どもたちは、飛行機のことをフランス語のまま「avion(アビヨン)」と呼びます。今では、フランスからの観光客を乗せた飛行機(フランスのパリ/マルセイユと、ジェンネから100kmのモプチの空港をむすぶジェット機)が、ジェンネ上空を週2回、ぶぉんと飛んでいきます。いまの子どもにとって飛行機は、空飛ぶカヌーでも鳥自動車でもなく、飛行機です。

6 件のコメント:

  1. あけましておめでとう!今年もよろしく。
    私もインドから帰るとき、バスで帰るの?と言われたなー。
    mkちゃんもついに帰国かー。会えるのを楽しみにしています。

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  2. 飛行機じゃなくても…

    自転車でマリ~モロッコが3ヶ月

    +ジブラルタル海峡を渡るフェリーで2時間

    +自転車でスペイン~中国が9ヶ月

    +東シナ海を渡るフェリーで3日間

    つまり、自転車と舟でも、日本まで帰れるよ(笑)

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  3. あけましておめでとう。
    4メッカ先の学校でお待ちしています。北米は日本から2メッカぐらいですよ。
    姐さん帰国するのはうれしいけど、このマリ日記がもっと続けばいいのに・・・とも思い、複雑ですなあ。

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  4. マリ日記、楽しみにいつも読んでるからねー。でも帰っておいで、帰っておいで。4メッカとちょっと先の学校でお待ちしています。

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  5. >たまこちゃん、buffalo姐さん、wknぽさん

    まだ正確な日程は決めてないんやけどね。もうちょっと、よその村に泊まり込みの調査も残っとるし。マリ日記はたぶん、帰国後、どっか別のところで関西日記に移行します。

    新年早々、研究者のたまごマナーを欠いて、怒られちゃった…(われらがML参照)。あぁ、失態をやらかすたびにこうして落ち込むのに、わたしは成長せんよ。礼服の「フォーマルな深い黒」も知らんかったし、子どもとけんかするし、オトナへの道は遠いのぅ…。

    >こころくん

    ご存じのとおり、妹は超インドア派なうえに、丈夫だけど体力がないので、兄のように自転車でマリ~日本は無理ざんすよ。

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  6. あわわ、私も同じことしてたよ……。そうかー、あれがなければ怒られるのか。勉強になりました。

    関西日記も楽しみにしてますー。

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